提案 ll ページ3
「情報を、密告し合いませんか?」
深呼吸をした一野さんの口から飛び出した言葉は、簡単なようで思い付かなかったことだった。
「情報の密告?」
「はい…実は、昨日の推理、からっきしだったんです。」
一野さんは、それだけ言ってしばらく黙った。
「それがどう………っ」
慣れない沈黙に耐えきれなかったのか、七瀬が一野さんを覗き込んだが、直ぐに黙った。
私も釣られて目線を移すと、固まって血液が流れるようにドクンと嫌な気がした。
「…大丈夫だよ」
一野さんの対面に座っていた私は、一野さん側に回り込んで背中を擦った。
一野さんは、頬を赤く染めて涙を堪えていたのだ。この状況で「大丈夫」なんて、一番説得力が無かったかも知れない。
「…ッありがとう、ございます。それで…昨日は4人で話し合って決めて…だけど、確証は持てなくて。」
目を瞑り、一野さんは綺麗な涙を溢した。その気持ちは、痛い程わかる。私達は皆、平等な立場なんだから。
「失敗したら…し、死ぬかもしれないし。」
正論だ。「軽い罰ゲーム」とは言うけど、サイコと私達じゃきっと感覚が違う。
死んでしまうかも知れない。
その恐怖が、私達の身体を蝕んでいく。
「出来るなら、そうしたいと思う。」
弐筱君が、少しばかり上擦った声で切り出した。
「だけど、サイコは時折"生放送"とか言ってる。と言うことは、部屋にあった小型カメラや録音機以外でも撮られてる可能性が高い。」
そうなると、この会話も筒抜けってことか。弐筱君のお兄さんのことも、六原君の家庭のことも。
サイコは以前、私達に「良心がある」と言った。もしかすると、胸中まで読み取れるのかも知れない。
じゃあ、この予想も全て…
『おはようございます! 起きてますか! 』
ゾッとした。なんてタイミングだ。
偶然でも凄い勘だが、狙ったなら手の施しようが無い…!
『朝食をご用意しますので、一旦自室にお戻りください! 』
「…じゃ、とりあえず朝食で、また。」
「はい。」
私達は一旦散り散りになって、自室に戻った。
それにしても、気弱な一野さんからの提案か。きっと、ずっと悩んでいたんだろう。
皆に合わせがちなところも、色々考えた末、そういう人格が生まれたんだろうから。
…それと、弐筱君への告白で無くて良かった。
理由と言えば、一野さんが振られて悲しまずに済んだから。きっとそれだけだ。
私は伸びをし、自室のベッドに倒れ込んだ。
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ