修羅場 ページ2
とりあえず制服の皺を伸ばし、ヘアピンを差し直す。
学校で捕らわれてしまった故、着替えなど無いのだ。
共同スペースに行っても、結局朝食の時間になったら一旦自室に戻されるのでは。
そう思いつつ、共同スペースに向かう。
ここで過ごすのは4日目であるものの、未だサイコとは映像と音声でしか関わっていない。
サイコやその手下が姿を現すであろう時、私達は自室へ戻るよう言われるのだ。
「おはっ…」
修羅場。
廊下を抜け、挨拶をしようとした時、私の脳はこの言葉で埋め尽くされた。
いや、待て。私が出て行った訳では無いから、これはまだただの告白現場だ。
幸い挨拶は気付かれていないようだし、影にそっと身を潜めるのが賢明と言える。
「…私じゃ…だ…駄目っ、でしょうか…」
なんと、である。気弱な一野さんが、弐筱君に告白らしきことをしているのだ。
実は、私と弐筱君は、密かに付き合っている。私は恋愛に疎いし、互いにひけらかしたい性格では無いため、あくまで「密かに」ではあるけど。
「………一野さん。」
もしこれで「良いよ」なんて言った日には、恋愛に疎い私でも流石に幻滅する。
浮気、というやつだ。
「それって、やっていいことなのかな？」
そうだよね、流石弐筱君。人としての道理を貫く、我らが学級委員長である。
「やっぱり、駄目、ですかね…」
本音を言う時の癖、眉をひそめながら、一野さんはうつむいた。
…告白してしまうのも、仕方無いと思う。私達の関係を知っているのは七瀬と三河さんだけだし、何より弐筱君は優等生だし。
「修羅場かー？」
「馬鹿ー」
ここで登場、馬鹿七瀬。
修羅場とわかっているなら、ここは七瀬の出る幕では無い。わかっていないのか、わかっていながら雰囲気を緩くするためなのか、七瀬はお構い無しに共同スペースに入った。
「七瀬っ…」
「いいじゃねえか、こうでもしねえと伍島入れねえだろ？」
後者か…この状況では有り難かったなぁ。
それにしても、一野さんの気持ちはどうしよう。
「ごめん、一野さん…! 」
「い、いえ…」
一野さんは、眉をひそめなかった。やはり他にも何か言いたかったんだ。申し訳無い。
「あ、あの…お2人は、この案どう思いますか？」
一野さんは、微かに眉をひそめた。と言うことは、「何か言いたかった」の何かは"この案"とやらなんだろうか。
「何だ？案って。」
一野さんは、ソファーに腰掛け姿勢を正した。
聴こう。
一野さんは"仲良しチーム"だから…いや、それ以前にクラスメイトなのだから。
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