森の管理人4 ページ21
「娘さん……名前はなんて言うんですか?」
「マリエルさ。俺の名と、嫁の名からそれぞれとって付けたんだ」
「へぇ……かわいい」
私は思わず笑みを零した。
そういえばミエルは現実世界でなんて名前を付けていたっけ。彼の娘、マリエルも……
(……ダメだ、思い出せない)
自身が記憶喪失になったことはないので、単なる物忘れだ。それもそのはず、私は家を出てから丸五年、おもちゃ箱に指一本触れていなかったのだから。
耳に残った言葉を手掛かりにここへ迷い込んだだけで、何事もなければあと十数年間は開けていなかったはず。
──それはいいとして、今はミエルの語りに付き合うのも悪くない。
幸い、今この家にオレイユもミティもいない。『お買い物に行ってきます』と書かれたメモ用紙の端に小さく『ミティもついてきます』と書かれてあったけど、あとを追ったのだろうか……迷子になっていないか心配だ。
「って、あれ? 奥さんは?」
「嫁はなぁ……数年前、うちを出て行ったよ」
「えっ」
ひょっとして、かなりマズいことを聞いてしまったのでは?
急激に暗くなる雰囲気に、私は慌てて話題を変えようと試みた。
「あっ、私もーいつかマリエルさんの料理いただきたいなーぁー」
「……それは」
え。
(……もしかして私、また地雷踏んじゃった??)
「……んと、ごめんなさい……?」
「いや、すまない、実は娘は行方不明でね。ここ三年くらい会っていないんだ」
「そう、ですか……」
あまりにも明るく告げられたトンデモ事実に、私は上手く言葉を返せない。
──でも、彼にとっては辛いことだったろう。私には到底わからない、やるせない感情に駆られたはずだ。
私は、呼吸を整えると、落ち着いた口調で言葉を発した。
「ミエルさん、よかったら今度、うちで一緒にご飯食べませんか? ……って言っても大したものは作れないけど……オレイユさんも、ミティちゃんも、快く許可してくれると思うので」
「本当に、いいのかい?」
「はい。今は家でお一人で召し上がっているんですよね。それなら……みんなで食べたほうが、ゼッタイ美味しいです」
「そうかい。じゃあ、また来るとしよう」
──よかった。
ここで拒まれたらどうしようかと思った……。
「でも」
「え?」
ほっと安心していた私だったが、唐突に低くなったミエルの声に、背筋が凍るのがわかった。もっとも、球体関節人形の背筋が凍るのは人間と同じく比喩表現でしかないが。
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葉月だんご(プロフ) - 麦カケさん» 感想ありがとうございます〜! 私も書いてるとき、主人公の正体をバラそうか隠そうか迷いました(笑) 今後の展開にもぜひ、ご期待ください(*´ω`*) (2020年12月30日 23時) (レス) id: 1261bb0f48 (このIDを非表示/違反報告)
麦カケ(プロフ) - 初めまして。人形達が持ち主だって気づいてない所がせつないです(でもそう言う設定好きです)これからどう言う展開になっていくのか気になります。無理せず作者様のペースで頑張ってください! (2020年12月30日 17時) (レス) id: ea0439ca7f (このIDを非表示/違反報告)
葉月だんご(プロフ) - 千々さん» コメントありがとうございます♪ お気に召していただけたようで何よりです! この感想を糧に引き続き更新がんばりますので、お付き合いいただけたら幸いです〜(*´艸`*) (2020年3月30日 17時) (レス) id: 3d624ae683 (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - オリジナルでいい作品を久しぶりに見つけられました! 人形たちの微笑ましい生活をこれからも見ていきたいと思います! (2020年3月15日 13時) (レス) id: df88b28f21 (このIDを非表示/違反報告)
だんご(プロフ) - ぐうたら猫さん» コメントありがとうございます〜! 気に入っていただけたようで何よりです♪ ネコのぬいぐるみってカワイイですよね← (2020年1月8日 2時) (レス) id: 3d624ae683 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:葉月だんご | 作成日時:2019年10月19日 12時