人形の街シュピール【オリジナル】

人形の夢５ ページ11

「そんなことが……」

　私は語られた状況をリアルに想像してしまい、あまりの惨(むご)さに口元を両手で押さえた。そうしなくては、嘔吐しそうだったからだ。
　語り終えたシュヴァンツは、相変わらず遠いところを見ていた。何を見ているわけでもなく、だた、虚ろげな視点が、宙をさ迷う。

(シュヴァンツ、あなたは責任感が大きすぎる──……)

　それは、無意識に彼の重りになってしまっている。
　このままでは、心が押し潰されてしまうだろう。

(ダメよ、そんなの堪えられない)

　私は頭(かぶり)を振った。
　変えるのは──私しかいないのだ。

「シュヴァンツ」
「……なんだい？」
「あなたは、何でも一人で抱え込みすぎる。ここには、私も、みんなだっているの。一人で解決しようとしないで」

　ボタンの瞳を覗き込む。ただひたすらに、この想いが届くようにと願う。
　ひどく自虐的な、涙を堪える目付きとしていたシュヴァンツだったが、ようやく落ち着きを取り戻したのか肩の力を抜いた。

「何でも、相談するのが一番よ」

　私の言葉に、シュヴァンツは何度も頷いた。


　それから何回目かの冬を迎えた。
　おもちゃ屋には絶えず人が訪れ、私たちをまだ人の目に留まる機会があるかも、と期待させる。新入りを何人もあたたかく迎え入れ、何人も見送る。そんな、日々。
　なんの変哲もない日常も、つまらないとさえ思えなくなった。

「え、シュヴァンツが？」

　私は己の耳を疑った。
　だってもう古いもの。聞き間違えたのかも。

「そう。ナントカっていうこれくたー？ さんが、兄さんのこと気に入ったんだって。古いもの大好きなおじさんでね、おうちには他にもいーっぱいお人形さんがいるってお店の人に自慢してたよ」

　現在おもちゃ屋にいる人形の中で、私とシュヴァンツに次いで年齢の高いイタチの少女ドンノラが、短い両の前足を必死に広げて「いーっぱい」を表現してみせた。全然わからない。

「でも兄さん、あのかっこよさで今まで売れ残ってたってほうが、スゴいもんね。あたしがニンゲンなら、即買ってたかも」

　にしし、と笑うドンノラは、シュヴァンツが大好きな乙女である。確かに、身内の贔屓目を抜きにしても、シュヴァンツは余裕で"かっこいい"の部類に入る顔の作り。彼女の言うことも納得できる。

「……本当に、シュヴァンツは買われて行っちゃうの？」
「……たぶんそうだよ。これで、姉さんが一番の年上になるのね」
「…………そうね」

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