モノクロの世界に色を (ページ3)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:15,276 hit

2 ページ3

お祭りに来て、何をすることも無く屋台を見て回る。芽依の顔を少し除くと暗い顔をしているのに気づいた。

｢芽依、射的しよ。｣

芽依のことを少しでも笑顔にさせたくて、気分転換にでもなればと思い射的を提案する。

昔から、他人に見えない物が見えてその声が聞こえる私と芽依。

私はそのことを上手く隠してきたが、素直すぎる芽依は上手く隠せず他人に沢山の陰口を言われてきた。

入院生活が長くなり始めた私には、芽依の心の傷口を癒してあげる時間がとれなくなり、中学にあがったときぐらいから芽依は笑わなくなった。

芽依の手を引き、一番最初に見つけた射的屋へ入る。中にいるおじさんにお金を渡すとコルクを4つもらった。

｢…Aは何が欲しい？お姉ちゃんがとってあげる。｣

芽依はそう言い、軽く微笑む。
でも、その微笑みは偽物だということくらい双子を17年間ほど続けた私には分かる。

｢…あ、あれ欲しい。｣

それでも、そのことに気づかないフリをして芽依におねだりをする。
それしか今の私には、もう出来ない。

｢あの栞？｣

｢うん。｣

私が指さした物は、菱田春草の黒い猫の栞。
入院生活での長い時間の暇潰しを日本画を描くことに費やしてきた私は、今ではそれなりに名のある画家である日本画の画家だ。
そんな私にとって、やはり菱田春草は憧れ以外何物でもない。

芽依は一生懸命、栞を落とそうとするが微妙にズレてその栞は落ちない。
暗くなり始める芽依の横で、栞が落ちるようにと願いを込めて手を握る。
その願いが通じたのか、最後の1発で奇跡はおきた。

パコ

｢……やった！落ちたよ、A！｣

いい音がして栞は倒れ、おじさんが笑顔でこちらに渡してくれた。
｢お嬢ちゃん、いい姉貴を持ったな｣なんて言って。

その後もヨーヨー釣りや金魚すくいなどお祭りにきたらやるべきことを一通り終えた私たちは帰路につこうとしていた。

だが、その時何かに操られるように後ろを振り向くとそこには白髪の魔術師のような洋装の人が舞台の上に立っているのが目に入った。

マジックショーの類いだろうか。

私は目の前を歩く芽衣の制服の裾を掴み、人だかりの方を指さす。

｢芽依、そこでマジックショーしてる。｣

｢ほんとだ。見に行く？｣

｢うん。｣

久々の芽依との外出で私も浮かれていたのかもしれない。何時もなら見向きもしないものを見るために必死になって人だかりの中を割って入っていった。