【◇】稲実エースが惚れちゃった (ページ32)

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成宮と二人で、宣伝の看板を持って歩く。

まぁ成宮に女の子が集まること。
そらそうだ、甲子園のマウンドで投げたような男が
人気にならないわけがない。

離れるなとか言っておきながら
女の子に囲まれて成宮が離れてるし。

しばらく放っておこうと、近くのベンチに座っていると---

「ねぇねぇ、一人？よかったら俺らと回ろうよ。」

明らかなナンパ男二人がやってきた。
私服を着てるところを見ると、おそらく一般客だろう。

『いえ、結構です。人待ってるんで。』
「そんな釣れないこと言わずにさ。」
「浴衣めっちゃ似合ってるね、可愛いよ。」

何だろう、先輩や1、2年のみんなに言われた時は
素直に嬉しかったのに、全然嬉しくない、
というか最早、テンションが下がる。

『私、宣伝の当番中なので失礼します。』
「じゃあそこ連れてってよ。」

しつこい男だなとイライラしていると
相手が腕を掴んできた。
振りほどこうとしても、ほどくことができない。

　『離してください！』
　「一緒に行ってくれるなら離してあげるよ。」

成「おい、その汚い手、離せ。」

　『！な、成宮。』
　「何だお前。」
成「それはこっちの台詞だ。さっさと離せっつってんだろ。」

成宮はそう言いながら私の腕を掴んでいる
男の腕を右手で掴む。

　「いって...！？」
成「言っとくけどこれ利き手じゃねぇから。」
　「おい、行こうぜ。」

成宮の圧に気圧されたのか、二人はそそくさと逃げて行った。

「A先輩、行こう。」

そう言って私の右手を優しく握り、歩き出す。
いつもの成宮なら、大丈夫！？とか変なことされてない！？
とか大騒ぎしそうだけど、珍しく静かだ。

着いたのは、保健室。

『私どこも怪我してないよ？』
「手首の所、真っ赤じゃん。ちゃんと冷やそう。」
『あ...。』

言われるまで気づかなった。
先生は出払ってるらしく、成宮がアイシングを用意してくれる。

『ふふっ、いつもとは逆だね。』
「ほんとだ。.....A先輩、ごめん。」
『なんで謝るの？むしろ助けてくれてありがとう。』
「俺がA先輩のそば、離れたから。」
『しょうがないよ。成宮は人気者だもん。』
「でも俺が離れないでって言ったのに、俺から離れた。」
『こんなの、大したことないよ、全然平気。』
「.......。」

よほど気にしているのか、顔を下に向けている成宮。