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「ねえA」

拳が帰って来た次の夜、今度はわたしの家でお酒を飲んでいた。今頃拳の家では、わたしの両親と拳の両親で盛り上がっていることだろう。

ふたりきりでゆっくり飲めるなんて思わなかった。お酒を飲むときはだいたいなにかの集まりだったし、ふたりきりになれる時間は少なくてそんな暇なかったし。

「彼氏できたりした?」

頬や首をすこし赤く染めた彼は、誰がどう見ても酔っ払いだった。そんな拳に彼氏の有無を問われるなんて、初めてのシチュエーション。そもそも拳がここまでお酒を飲んでいるのも珍しい気がする。人の集まる場所ではそれなりにセーブしていたんだろう。

「ねー、いるの?」

視線がカッチリとはまってしまって、抜け出せない。……ああ、また何かが盗まれた。捕らえられてしまったと表現するのが妥当だろうか。

あんまり見つめられると、心の奥底が透けてしまいそうだ。

「あはは、できてないよ」

できるだけなにも透けないように、そうっとぼんやり曇らせて返した。不透明な笑顔もセットで。

「ほんと?絶対いると思った」

彼にとってこの話題はなんでもない世間話のひとつで、彼氏ができていればそれである程度時間が持つから聞いただけなんだろう。結局のところ、恋バナはいつになっても楽しいって話。

だから、いないと知ればこれ以上この方向に話が進むことはないだろう。拳に探られたらあっという間にバレてしまう気がするから、できるだけそういった話題は避けたい。いままでも、避けてきた。

「てかさ、Aってずっと彼氏つくんないよね」

それなのに、

「どうして?」

どうして今日は急にぐいっと近付いてくるんだ。

わたしの恋愛人生を初めからまるっと奪っていったくせに、さらにごりごりと何かを削っていく彼の気が知れない。

「ど、どうでもよくない?」
「えー、だって気になるじゃん。別にできないわけじゃなさそうじゃない?」

甘いお酒を飲みながらそうぐいぐい切り込んでくる拳に、腹が立ってきた。今更好きになってほしいとか付き合いたいとか高望みはしない。しないけど、……しないから、お願いだから触れてこないでほしい。

ぎゅっと心が締め付けられる感覚には慣れたつもりだったのに、素手で力いっぱい握られたら、耐えきれそうにない。

「なあに言ってるの、できないだけだよ」

そう答えると、目の前の“彼氏ができない理由”が笑った。彼の瞳を見つめることはできない。でも、その分、声は明るくするように努めた。

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早瀬(プロフ) - カルボンさん» カ、カルボンさん…!作品拝読しております!テーマ褒めて頂きありがとうございますお気に入りのテーマでしたので嬉しいです…!(T_T)皆様のお陰で素敵なものができて私も感激です!素敵な感想ありがとうございました! (2020年10月27日 0時) (レス) id: d923da9d53 (このIDを非表示/違反報告)
カルボン(プロフ) - あっ、、、致死量のエモ、、、。まず「好きと言わない告白」という企画テーマが天才すぎて頭抱えました。素敵すぎてこちらはどうにも「好き………」としか現在言葉が出てこない状況です。素敵な作品、ありがとうございました。 (2020年10月26日 23時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
早瀬(プロフ) - こむらさん» コメントありがとうございます!皆様が織り成すこの素敵な恋模様がとうとう世に放たれました……!私も感激で言葉がでません…(T_T)ご覧頂きありがとうございました!! (2020年10月26日 22時) (レス) id: d923da9d53 (このIDを非表示/違反報告)
こむら(プロフ) - 拝読しました。素敵な企画を本当にありがとうございます。どのお話も心を動かされました。私の語彙力ではうまく表現出来ませんが、メンバーと女の子たちの精一杯の愛情を見せて頂けて本当に幸せです。1話読む事に深呼吸して天を仰ぎました。お疲れ様でした。 (2020年10月26日 22時) (レス) id: 611554b67c (このIDを非表示/違反報告)
早瀬(プロフ) - やまだ はなこさん» コメントありがとうございます!そうなんですバチバチのエモなんですこんなとんでもないことあっていいのかという次元にきてます……!企画、お褒め頂きありがとうございます!ぜひこの神々のお話を何度も何度も読んでください!!(*^_^*) (2020年10月26日 21時) (レス) id: d923da9d53 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:早瀬 | 作成日時:2020年10月3日 0時

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