検索窓
今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:283,379 hit

22話 ページ23

心臓がうるせェ。

顔が火照るのが自分でも分かる。

彼奴の細くて白い手首を握っている手に汗をかく。

声を出そうとも、空気の音だけで、言葉は出ては来ない。


何も言わない俺を不審に思ったのか、彼奴が振り向く。


ーーーシィィィ。


呼吸をして、頭も肺も身体も冷やす。


「…ケヱキってのを、買って来たんだァ。

…街の、女子供の間で、今流行っているって聞いてェ。

…っその、今日、お前、誕生日、だろォ。」


情けない程細く辿々しく口から出る言葉。

顔が明るくなる彼奴。

喜びながらもケヱキを頬張る。

緩む頰。

俺も嬉しくなる。



でも、言いたいのは此れだけじゃあ無い。

彼奴が食べ終わったら言うのだ。

ーーー誕生日、おめでとう。

ーーーお前に贈り物を買ったんだ。

そして、選んだものをあげるのだ。


それだけで、良い。

それだけでいいのだ。

だから、静まれ、俺の心臓。


深呼吸しても鳴り止まない。

ーーードクン。ドクン。ドクン。

彼奴のケヱキが小さくなっていくのに対して、俺の心臓の音は、どんどん大きくなっていく。


彼奴が食べ終わる。

息を整えて、いや、整いはしないのだが、懐から包み紙を押し付ける。

ーーードクン。

心臓が吐くほどにうるせェ。


彼奴が驚いているのを見ながら、息を吸う。

「…やる。

お、前に、買ったんだ。

…っその、今日、誕生日、だから…。」


1番言いたいことが緊張して言えない。

怖くて彼奴の事が見られない。


「…開けても?」

「…ん。」


包みをほどき、蓋をあけ、中を見る彼奴を横目で見る。

何時も大きな眼はより一層開かれる。

彼奴が翠の贈り物を取り出す。


「…つけてやるよォ。」

そう言って後ろを向かせる。

肩下まで伸びた髪を結い、リボンとやらを結び目に付けてやる。

手が震えて、上手く結べない。

彼奴にもきっと伝わっているのだろう。




「…出来たぞォ。」


振り向いて、此方を見上げて聞く。

「如何ですか。」

ふわりと舞うリボンと黒い髪。


「…似合ってる。

…っ誕生日、おめでとォ。」


ーーードクン。

心臓が飛び出るのでは、と言うほど鳴り響く。

首の後ろや耳まで赤くなっているのが自分でも分かる。

やっと紡ぎ出したのは、俺に出来る精一杯の褒め言葉で。

辿々しく、掠れていて。

全く格好が付かなかった。



それでも彼奴は俺の好きな顔で頰を緩ませ、笑った。







次の日から彼奴の、Aの髪にリボンが揺れるようになった。

23話→←21話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (205 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
410人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ゆきな(プロフ) - はえ〜…好き (2020年3月19日 3時) (レス) id: e7791cc44f (このIDを非表示/違反報告)
抹茶タピオカ2号(プロフ) - 待って泣く泣くてかもう泣いちゃたー!。゚(゚´Д`゚)゚。とても面白かったです( ≧∀≦)ノ (2020年3月15日 3時) (レス) id: 48661705e7 (このIDを非表示/違反報告)
つむぎ - 随分遅れましたが続編おめでとうございまーす!!!!!これからも更新頑張ってください、応援してます! (2020年3月14日 9時) (レス) id: 9d8d7fe98a (このIDを非表示/違反報告)
抹茶タピオカ2号(プロフ) - 帰れない!嘘、(゜゜;)とても面白かったです( ≧∀≦)ノ (2020年3月14日 0時) (レス) id: 48661705e7 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶タピオカ2号(プロフ) - 最初から最後まで、読みました!とても面白かったです( ≧∀≦)ノ後ランキング5位おめでとうございます!(* ´ ▽ ` *)ノ (2020年3月13日 10時) (レス) id: 48661705e7 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:北窓 | 作成日時:2020年3月12日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。