21話 ページ22
風柱side
玄関を開ける前に深呼吸する。
それでも鳴り止まない心臓。
手は暗闇でも分かる程震えている。
女に贈り物するのなんぞ初めてだから仕方がねえ。
笑ってくれるか。喜んでくれるか。
彼奴の笑顔が見てェんだ。
頰の緩んだ顔を思い出す。
ほんの少しの期待を胸に、戸を開ける。
「遅くなってわりィ。
ちょいと用があったんだァ。」
そう言って中に入って草履を脱ぐ。
普段ならすぐに奥からパタパタと足音が聞こえて来るはずなのに、今日は何も聞こえない。
帰っていないのか、とも思うが、玄関に彼奴の草履が揃えてある。
不審に思いながらも中に入る。
「オイ、三ノ宮。いねぇのかァ？」
居間に入ると置かれた紙切れ。
『要らないかもしれませんが、今日の御飯です。』
そう短く書いてあった。
もう寝たのか、何て残念に思いながらも彼奴が作り置いてくれた夕飯を食べる。
風呂に入って、今日買ったものをどうしようか、と迷っていた時だった。
襖が開き、庭から彼奴が入って来た。
手は豆が潰れまくって皮が剥け、血がダラダラと流れている。
寝転がったのだろう。
背と髪は土がついている。
驚いた顔の彼奴と目が合う。
瞬間、逸らされた。
「お帰りなさい。お出迎えしなくてすみません。
外で寝ていました。
お風呂、入って来ます。」
早口で言ってこの場を去る。
何時もよりそっけない態度に違和感を感じながら、彼奴が風呂から上がって来るのを待つ。
上がって来てからも淡白で目が合わない。
す、と体温が下がる。
「夕飯要らないかもしれない、てのはどういう事だァ。
外で食べるなんて言ってねェぞ、俺はァ。」
目が合わない事に不機嫌になりながら、つい口調が強くなる。
彼奴の瞳が揺れた。
「…街で、女子と逢引していたので、若しかしたら帰ってこないのでは、と考えました…。
私が縛りになっているのならすみません。
ですが、私も1人で生活できるので、不死川さんも私に付きっきりではなく、もっと自由に行動しても大丈夫ですよ。」
そう言って下手くそに笑う。
踵を返し、寝ようとする奴の手首を掴む。
俺が見たかったのは、そんな歪んだ笑顔じゃねェ。
手を掴んだは良いが、なんて言えば良いのか口から出てこない。
お前に贈り物を買ったんだ、と。
受け取ってほしい、と。
誕生日おめでとう、と。
ただそれだけ言えば良いはずなのに、心臓が物凄い速さで動き出す。
口は乾いて声が出ない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 410人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆきな(プロフ) - はえ〜…好き (2020年3月19日 3時) (
レス) id: e7791cc44f (このIDを非表示/違反報告)
抹茶タピオカ2号(プロフ) - 待って泣く泣くてかもう泣いちゃたー！｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡とても面白かったです( ≧∀≦)ノ (2020年3月15日 3時) (レス) id: 48661705e7 (このIDを非表示/違反報告)
つむぎ - 随分遅れましたが続編おめでとうございまーす！！！！！これからも更新頑張ってください、応援してます！ (2020年3月14日 9時) (レス) id: 9d8d7fe98a (このIDを非表示/違反報告)
抹茶タピオカ2号(プロフ) - 帰れない！嘘、(゜゜;)とても面白かったです( ≧∀≦)ノ (2020年3月14日 0時) (レス) id: 48661705e7 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶タピオカ2号(プロフ) - 最初から最後まで、読みました！とても面白かったです( ≧∀≦)ノ後ランキング5位おめでとうございます！(* ´ ▽ ` *)ﾉ (2020年3月13日 10時) (レス) id: 48661705e7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：北窓 | 作成日時：2020年3月12日 23時
