廻 ページ5
するり、彼は私の抱擁を優しく解き、少しばかり身を離して私の顔を見上げた。
「なぁ、A。俺が今から言う話を、笑わずに聞いてくれるか?」
彼の雰囲気が変わったのがわかった。
これは、かなり真面目な話になりそうだ。
ベッドサイドにあったティッシュをもう3枚取り、鼻水と涙を拭き取り背筋を伸ばす。
準備OKです、と言わんばかりに頷くと、彼も小さく頷き深呼吸をした。
「この世界は、何者かの意思によって何度も繰り返されている。何が繰り返しの原因であるのかはわからない。ただわかるのは、俺たちモンスターが地下から解放されて10年以内にその繰り返しの現象は起きる。人間が、フリスクが地下に落ちてきた日に、全てが巻き戻る。地上に出た事も、恋人がいた事も、友人がいた事も全て忘れてあの日に引きずり戻される。…この現象に対抗する術は今の所なし。俺と、ごく一部の連中以外はこの繰り返しが起きている事にすら気付いていない。皆にとってはこの世界が"初めて"の世界なんだ。俺のラボにある観測データによると、"今"の世界は…」
そこで彼は一度言葉を止め、俯く。
正直、今彼の口から語られた出来事の殆どが理解できないが、今ここで自分が質問することによって彼の話の腰を折るのはいけないことだと思い、兎に角彼の言葉を待つことにする。
体感にして約1分ほど、彼は俯いていた。
意を決したのか、彼はゆっくりと顔を上げ、私の目を真剣な眼差しで見つめて言葉を紡ぐ。
「"今"の世界は、24752回目の世界だ」
『にまっ…!?』
驚きのあまり彼の言葉をオウム返ししかけてしまう。
正直、俄には信じがたかった。
『じゃ、じゃあ今しているこのやり取りも…24752回目なんですか…?』
「いいや、これは今回が初めてだ。記録には今までのタイムラインで俺がアンタに会えた事は一度も記されてなかったからな」
繰り返し。
観測データ。
タイムライン。
…もう完全にSFの世界だ。
あー、ダメだ、全然わからんぞ。
取り敢えずこの世界は四捨五入すると3万回近く繰り返してて、でもそれをサンズさんと一部の人以外は覚えてなくて、今回の世界で私とサンズさんは初めて出会って……ん?
初めて…出会った…?
『サンズさん』
「ん?」
『まさか探してたって…24752回も、私を探してたんですか…?』
世界が何度繰り返されても、ただ私を見つけるためだけに、ずっと?
彼は、ふ、と酷く悲しげで、それでいてとても美しい笑みを浮かべる。
「だから言ったろ? ずっと探してたって」
89人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「Undertale」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
春朧 - 素晴らしい作品をありがとうございます!!この作品を見つけてから何回も見返して楽しんでます!!これからも応援してます (2022年8月16日 11時) (レス) id: 27ed0134a4 (このIDを非表示/違反報告)
名無し56929号(プロフ) - この作品に出会ってはじめから一気読みしました…一番好きな小説ですありがとうございます… (2022年6月16日 12時) (レス) @page23 id: bb65216783 (このIDを非表示/違反報告)
くろほたる(プロフ) - お陰様で新たな扉が破かれました。お話開く度一喜一憂してしまいます。sansの原作っぽさを再現しつつ違和感皆無に仕上げるの感動しました…!おじさん(主人公)かわカッコでsansもカッコかわなの凄く微笑ましいです悶えます…!!長文失礼しました。おかえりなさい…!! (2022年5月29日 23時) (レス) id: c41e537264 (このIDを非表示/違反報告)
夢川(プロフ) - 黒曜楼乱さん» ただいまですー☺️ (2022年5月17日 23時) (レス) id: f5c230c4ae (このIDを非表示/違反報告)
夢川(プロフ) - モブくんさん» えへへ、遅くなってすみません☺️ (2022年5月17日 23時) (レス) id: f5c230c4ae (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:夢川 | 作者ホームページ:http://ulog.u.nosv.org/item/da3d119d46aa3a420b503d00d3fa8e22/1637423635...
作成日時:2021年11月29日 14時