素直な君との攻防戦2【降谷零】

49、忘れられない言葉 ページ7

目の前で泣かれてしまって、少し焦った。

こういう時どうすべきか…
22にもなって情けないが、僕は女子の扱いに対する経験値が浅い。

…萩原ならきっと、上手く対処するんだろう。


すぐに俯いたAは『め、…めんご』と言いながらゴシゴシと強く目を擦り始めた。


｢バカ！そんな擦ったら赤くなる…｣

｢勘違いされたくないから…先に言っておくけど…！！｣
｢…何だ｣

｢慰めてほしいとか、同情してほしいとか…ずっと友達で居てほしいとか。そんなお願いをする為に、君に話したんじゃないから｣

｢ん？あぁ…｣


Aが、他人の同情を引く為に、打算的な行動を起こすような奴じゃないことを理解している。

単純に…あの場面を僕が見てしまったから、流れで過去の話をしただけだと思ったが。

頷けば、Aは苦笑して…暗闇の落ちた窓の外へ視線を移した。

彼女の目元は、やはり赤くなっていて


｢例えば、また今日みたいな事が起きて……今度は君たちに直接迷惑をかけることがあったら。私を、遠慮なく突き放していいよ、って…君にだけ伝えておきたくて。だから、この話は萩原達に絶対内緒に…｣

｢突き放せるわけ無いだろ｣
｢…降谷｣

僕達といるのが楽しくて、幸せすぎて怖いと泣いた…Aを。


｢僕は何があってもお前を突き放さない｣


こんな状況でも、自分の幸せじゃなく……他人を1番に想う彼女を、心から " 好き " だと思った。


｢でも…｣
｢迷惑なんかいくらでもかけられて構わない。Aと友達で居られるならそれだけで十分だと…僕は思うよ。多分、あいつらも同じ｣

｢…｣
｢それくらい、僕達にとっては大きな存在になってるんだ。お前は｣


今更、僕達から逃げられるなんて思うなよ。


｢" 突き放して " 、なんてバカなことはもう言うな。いいな？｣

じっと僕を見つめたAは、目を細めて『うん』と嬉しそうに笑った。



｢降谷…あの…｣

｢分かってる。アイツらには黙ってるから。お前の過去の事も…今日、あの女子達に絡まれていた事も｣

｢ありがと｣
｢あの女子達のためにもな｣
｢へ？｣

Aが平手打ちされてた…なんて教えたら萩原がキレるだろ。

｢普段ヘラヘラしてる奴がキレるのが1番怖いだろ？｣
｢ハハ…｣

名前を出さなくとも察したらしいAは、乾いた笑いを零してから大きく伸びをした。

｢ほーんと！みんな恋愛脳だよねぇ｣

｢…そうだな｣


結局、この時の言葉が…僕の心に残り続けてしまったんだと思う。

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