素直な君との攻防戦2【降谷零】

48、手に入れてしまった幸せ ページ6

｢私、弱くはないと思うけど……だからと言って、何も感じない訳ではないから｣


『ちょっと、辛くて…挫けた』。

そう呟いた瞬間、彼女の瞳に涙が滲んだのが分かった。

思い出すのも苦しいのだろうが…Aから話し始めたという事は、どうしても誰かに聞いてもらいたかったんだと思う。


『うん。…辛かったな』って、こいつに寄り添う言葉がスムーズに口から出て、自分でも驚いた。

僕の顔を見上げたAは、眉を下げたまま小さく微笑む。


｢もう！こんな思いするなら、友達なんて要らない！！って、大学に入る前に決めたの。…大学でも…ここに入学してからも、静か〜〜に気配を消して過ごしてたのは、友達を作らないため｣

｢…｣
｢まぁ、そのせいであの子たちに " いいカモ " だと思われて合コンに誘われちゃったけどね。わはは｣


もしかして

こいつが居酒屋に執着をみせたのも、コーヒーを買うためだけに…嬉しそうに僕を呼びに来るのも。

…大学の4年間。そして僕達と仲良くなるまで。
望まない形で " 友達が誰も居なかった " から？


こんなに人と喋るのが好きで、ちょっとした事でケラケラと楽しそうに笑う…こいつが？

今まで、一体どんな思いで…

そう考えて、ハッとした。


｢お前…さっき " 僕達と縁を切ってもいい " …って｣
｢…っ、…それ…も、聞こえてたの？｣

目を丸くした彼女は、バツが悪そうに足元に視線を落として手を強く握る。
その拳は、力を入れすぎて僅かに震えていて。


｢ご、め…｣

｢あの言葉は、本心か？｣
｢…、｣

｢お前にとって、僕達はそんな簡単に…縁を切れるような存在だったのか？｣


僕が小さな声で問うと、暫く無言で俯いていた彼女が何度も首を横に振り始めた。


｢A｣
｢…本心…じゃ、ない｣

｢…｣
｢本当は、降谷達と……ずっと、友達で…いたい｣



彼女の震える声に、胸が締め付けられるように痛む。



｢警察学校でも友達は作らないって決めてたの。本当に……だって、同じことになるかもしれないし…そもそも、 " 仕事 " だから｣
｢あぁ｣

｢でも……｣

僕を真っ直ぐに見つめるAの瞳は、綺麗で。
…綺麗すぎて、切なくなるんだ。


｢降谷達と仲良くなったら…本当に、毎日…楽しくて｣
｢うん｣

｢幸せすぎて、怖くなった。…今までずっと1人ぼっちだったくせに……また1人になるの想像したら、さ、寂しくて。怖くてたまらない。…降谷たちと離れたくない、の｣


途端、ポロポロと溢れた涙。

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