素直な君との攻防戦2【降谷零】

66、最悪のコンディション ページ24

｢…っ、あ、安室透…っ！！｣


喫茶店の扉を勢いよく開けながら、彼の偽名を呼ぶ。

息は切れて、きっと髪はぐしゃぐしゃ。
涙だってまだ止まっていなくて…

こんな最悪のコンディションで告白しようと思う女の子なんて、いるわけが無い。


でも…


｢A？｣

カウンター席の片付けをしていたらしい降谷が、驚いたような表情で私の名前を呼ぶ。


……好き。

すきだよ。

君と幸せになりたいの。



降谷を見た瞬間、私の頭を埋めつくしたのは

溢れてしまった君への好意。
それ以外何も考えられないくらいに…


｢A、どうし……｣
｢すき…｣

｢へ？｣
｢私…っ！君が、好き｣


" 降谷 " と呼べないことが、切ない。



｢ずっと、好き……君が1番すき…｣


暫く固まっていた降谷が、ゆっくりと私の元へ歩いてくる。

ポロポロと零れる涙。

拭う気にもなれず、肩で息をしながら彼の綺麗な瞳を見つめていれば、優しく頬を撫でてくれて…


『…だいすき』。

そう口にした瞬間、ほんのりと赤く色付く彼の頬と
照れたような微笑み。


そして…


｢きゃーっ！！！安室さん…っ！告白されてる！｣


店内に響く、女性の声

…え

｢へ……あ…っ！あ、あー！！！｣

自分のしでかした事の重大さに気づくと同時に、顔から火が出たかと思うくらいに体温が上がる。

…こ、れは


やばい。
突然正気に戻った私は、彼の手を振り払って店内を見渡す。

恐らく、安室透目当ての女性客数人(それぞれ唖然としてスプーン等を落としている)と、キャーキャー楽しそうな女性店員さん1人。


まずい…


｢た…っ！た、たた大変失礼しました！！！｣

深く頭を下げて、踵を返す。
急いで外へ出ようとドアへ手を伸ばした…直後

身体が浮いた。

｢…っ、ぅおーい！！！あ！あんた！ちょっと何して…｣

｢逃げられないように。｣


軽々と抱き上げられて、気がつけばお姫様抱っこ状態。

嘘でしょ…

｢お！降ろして…っ！！｣
｢断る。｣

｢こんな所で抱き上げるなんてバカなの…？！！？｣

｢お客様もいるこんな場所で告白する貴女には言われたくないですね｣

それはそう！！
顔が熱すぎて、死んでしまいそう。


｢…っ、トオルクン…や、やっぱり忘れて…｣


『忘れてやる訳ないだろ』。
耳元でそっと囁かれた低い声に震える。

トオルクンじゃない…降谷だ。

すぐに笑顔を作った彼は店員さんの方へ身体を向けた。

｢梓さん、急用ができたので帰ります｣
｢仕事サボんなバカー！｣

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