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あの後僕は、六時を告げるチャイムが鳴るまでそこからピクリとも動けずに居た。
「心が痛む」という表現がしっくりくる、まるで恋愛ドラマのヒロインのような表情が焼き付いて離れない。
....なんで。昨日あんなに傷付いたはずなのに、なんでそんな....泣きながら、笑うんや。
....女の子のさっきみたいな表情を見たのは初めてだった。あの子はきっと傷付いているはずなのに、どうして....これまでの人生で見たどんな傷心の表情よりも、胸を締め付けて離してくれない。
どうにかその顔を思考から追い出して課題の採点に取り掛かる。....それでもやっぱり気を抜くとその表情が浮かんで、その度に手が止まってしまう。....何とか三年生の分の課題を採点し終えた頃には、時計の長針がさっきの真反対を指していた。
....このままここで仕事をするより、家に帰った方が集中できるかもしれない。そう思って、残った二年生の分のプリントを纏めて鞄にしまい込む。
明日はこの学校の開校記念日らしく、丸一日休日だ。....久々の三連休だし、これくらいの量なら仕事を持ち帰っても充分休めるだろう。
そうして職員室に資料室の鍵を返して、職員玄関で靴を履く。いつからか降っていたらしい雨にそこでやっと気が付いて、同時に傘がない事に気がついた。
....結構降ってるけど、しゃあないな。後は家に帰るだけだし、と言い聞かせてその雨の中へ飛び出した。
「....思ったよりも濡れたなぁ」
着ていた夏用スーツのジャケットを被せた鞄は、大して濡れずに済んだ....と、思う。少なくともその中身までは濡れていないはずだ。....ただ、鞄を庇いながら走ったせいか、その距離の割に髪や服が濡れてしまった。簡単にハンカチで水分を取ったものの、この時間になると気温も下がっていて、濡れた後だと少し肌寒い。さっさと帰ってシャワーでも浴びよう、とジャケットを羽織りなおして車のエンジンを掛けた。
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作者名:らぱん( ・×・ ) | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=d9fece3f785bc7d3ebaeeecd6103e95f...
作成日時:2019年2月23日 17時