残暑という名の言い訳 ページ4
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太陽は昇り、やがて沈みゆくものである。
自己中心的なそれは夏を連れ去って、瓶に詰め込んでいた秋を時の流れに沿って解き放ち、孤独な星たちを包み込むようにして夜を長くするのだ。唐突に訪れる匂いを不意に意識し始めた頃、人々の心はゆっくりと冷たく経過していて、一人寂しく満月に恋をする。────私は、そんな夏が好きではなかった。
だって、温もりを知らなければ、最初から苦しくなんてない。気付かなければ、幸せなままなのだから。
「時間が過ぎるのは、早いなぁ」そう言ってジリジリと詰め寄る暑さに汗を垂らすと、先生は黙ったこちらを見つめた。思えば、始まりはそんな日の夕方だった気がする。扇風機の羽がぐるぐると働き続けている他所で、チリンと笑う風鈴が片付けられた、そんな日の。
「日焼け止めは、ちゃんと塗らなきゃね」
煙草の匂いが染み込んだその白衣は、しっかりと晴天を吸い込んでいる。正常に酸素を取り入れているはずなのに、何となく息苦しくなってしまった私は、先生のネクタイを右手で掴むと自分の方へと強引に引っ張った。
別に、どうということはなかった。ただ、沈黙を埋めたくなった。たったのそれだけである。
強いて言うなら欲しいのは、過ごしやすい気候。心も身体も温かいまま、一生寒さに困らないための、空間。澄んでいるのは、空だけで良いのだ。そうやって、目を閉じる。
まるで小学生の現実逃避だ。自分だけの秘密基地に身を潜めて、狂気を隠した自然と共存する。理性とは裏腹に背徳感を意味するスリルと、豊富な満足感を合致させたい意欲だけをそそられて、贅沢な幸福に身を委ね、密やかな永遠を静かに望んで。
しかし、風が味方するように動きを止めた感覚を察知して、熱に触れたそれが互いの吐息を漏らすのを待ったのも束の間。彼は、距離感と襟を徐ろに正す。
「朝はちゃんと食えよ」
頭上に大きな手のひらを落として立ち上がり、教室を後にしたのだ。残されたのは、やはり熱さである。
…………ああ。これだから、太陽は。
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こころ(プロフ) - 言葉遣いや、主人公ちゃんの気持ちの表現の仕方がすごい好きで、読んでいて面白いです。ゆっくりで良いので更新待ってます! (2020年9月30日 20時) (レス) id: efbab0acfd (このIDを非表示/違反報告)
小笠原@銀トッキー - この主人公のノリ、好きです!更新頑張ってください (2020年5月27日 12時) (レス) id: d7fcd729d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:堕天使 | 作成日時:2019年9月20日 20時