外伝【弐】夏祭り ページ47
帰宅した杏寿郎は、目の前の浴衣姿の妻を食い入るように見つめていた。まさか、夜のお誘いを受けたかと思えば、実は夏祭りの誘いだったとは思いもしなかったらしい。
いや、AらしいといえばAらしいが。
「に……似合わない?」
「よく似合っている!愛らしい!」
不安そうに上目遣いをする妻を、愛らしい以外の言葉で何と言い表せようか。いや、できない。
杏寿郎の荒れ狂う脳内をまとめると、だいたいこんな感じだろう。愛妻家、これに尽きる。
妻自ら選んだという杏寿郎用の袴は、燃えるような赤に金色で龍の装飾が施されている。
想像と違った誘いだが、これはこれは良い!と杏寿郎は満足げに頷いた。
こうして若い夫婦は、家族に見送られ、初デートへと向かったのだった。
「杏寿郎!見て見て!」
無数の色鮮やかな提灯の明かりが照らすその場所で、子供のように杏寿郎の手を引くAは、出店をグルグルと見回すと、瞳を輝かせ、水槽の中を泳ぐ金魚に魅入っている。杏寿郎はというと、幸せそうな妻の姿に頬を緩めていた。
「A!りんご飴が売られているが、食べるか?」
「食べる食べる!」
美味しそうにりんご飴を舐めては微笑む妻に、杏寿郎はついつい妻に餌付けをし始めた。何をあげても嬉しそうに受け取る妻を見れば、それは仕方のないことかもしれない。
「ごめん、杏寿郎。私ばっかり楽しんでて……」
「Aが楽しいならそれで良い!だが、あまりはしゃぎ過ぎると風邪を引いてしまうぞ!」
「お母さんか」
できれば杏寿郎も楽しんでほしいと、Aは杏寿郎を射的に誘う。そして、Aが3発中命中は0発なのに対し、杏寿郎は3発中3発とも命中させるという凄まじい腕前を披露した。
Aは悔しそうにしていたが、今日くらいは良いだろうと杏寿郎を凄い!と褒め称えたところ、人前で頬に口付けをされた。人前で杏寿郎を褒めてはいけないと、Aは深く心に刻んだ。
「う……気持ち悪い」
「大丈夫か?」
見事に人酔いをしたAは、杏寿郎の膝を枕代わりにして、ベンチに横たわっていた。少し横になれば治る程度だが、それでも気分は良くないだろう。
「俺は水を買ってくるから、大人しく、大人しく!待っていなさい」
「なんで2回言ったの……」
「Aは安静に出来ないからな!」
早足で出店の方まで行ってしまった杏寿郎の背を見つめ、Aはやっちゃったなぁ、と深いため息をついた。
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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時