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伍 決闘の意味 ページ5

窓の襖を開き外を見れば、もう月が浮かんでいた。春が終わりかけているとは言え、まだ夜の風はヒンヤリと冷たい。背筋が凍るような悪寒さえする。
人通りのない屋敷の入り口辺りを見れば、景色がはっきりと見えないほどに薄暗く、何か良からぬモノが出そうだ、とありもしないことを考える。

「231!232!」

どこからか、声が聞こえた。最初は空耳かと思いもしたが、その声は止まない。こんな暑苦しい声の持ち主を、私は1人しか知らない。

「245!」

そこには、やはりあの男がいた。私より少し年上くらいの男で、髪でまで炎を表現している辺り、さすがは炎の呼吸の名家と言うべきか。
さすがに見つめ過ぎてしまったか、向こうも私に気付いて、笑顔で手を振ってきた。変なやつだ。

『良かった』

そのとき、アイツの安心したような笑顔が頭の中で再生された。あのとき、たしかに顔が熱くなり、胸がざわつくのを感じた。
まさか風邪?なんて言うほど私は鈍くない。鈍くないからこそ辛い。
まさか初対面で、こんな気持ちにさせられるなんて思わなかった。

「馬鹿馬鹿しい」

私は振り払うように、襖を閉める。だが私の耳は、アイツの声を確実に拾う。
恋だの愛だの下らない。生きるか死ぬかの世界で、そんなものはなんの役にも立たない。愛では飯も力も何も買えない。私たちが生きているのは、そういう世界なんだ。

「悩み事か?」
「ノックぐらいしてくれませんか?父上」

足音1つさせず、部屋に上がり込んでいた父に、私は思わずため息をこぼした。いくら父とは言え、真夜中に未婚の娘の部屋に入ってくるのは如何なものか……。

「今回の決闘は、私の勝ちです。婚約は破棄していただけますよね?」
「ああ、無理」

即座に返ってきた答えに、私は言葉が出なかった。
しかも、威厳などカケラもない間抜けな顔でそんなことを言われては、反応にも遅れてしまう。

「ですが、決闘は私が勝ちましたよね?」
「決闘が勝ったら婚約を破棄するなど、誰も言っていないだろう?」
「……なら、決闘の意味などなかったということですか?」
「そう思うか。なら聞くが、お前は杏寿郎くんと真正面から剣を交えたとして、勝てると言えるか?」
「それは……っ」

言葉を詰まらせる私に、父は満足げに笑う。
謀られた。わざわざあの男と剣を交えさせるがためだけの決闘。あの決闘は、私に敗北と杏寿郎という男を知らせるためのものだったのだ。

陸 兄と義姉→←肆 安堵



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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時

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