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堕ちた桜のように ページ36

周囲はまさに、地獄絵図だった。荒れ果てた土壌と、まだ10代後半の少女の遺体。その亡骸の傍で、魂が抜けたように沈黙を貫く炎柱。

「……A」

絞る出すようにして発せられた言葉は、悲哀と苦痛に満ちていた。誰も言葉を発さない、発せない。
そんな中で、そんな空気をぶち壊すような、呑気な声が響いた。

『何よ、アンタらしくないわね』

それは、先ほど命を絶った少女の声だった。だが、少女の亡骸はピクリとも動いていない。
空耳か、と誰もが思った、そのときだった。
少女を中心に、桜の花が舞った。まだ季節でもないのに、満開の花を咲かせて、唄うように舞う。
桜は地面に堕ちる度に、荒れた土壌を癒していく。傷ついた草木を、人を。

「ちょっと派手すぎない?」

状況がイマイチ掴めていない人々の視線が1人の少女に釘付けになる。誰よりも先に反応したのは、彼女の許嫁である、杏寿郎だった。

「A……なのか?」
「ん?」

杏寿郎の問いに、少女は気まずそうに笑うと、照れたように、ただいま戻りました、と返した。
彼女の傷口は、まるで嘘のように治っている。
生き返った。この戦いの犠牲者であり、愛のために死んだとされた少女が。
震えた手で、杏寿郎がAに触れる。すると、Aは人目も気にせず、杏寿郎に抱きついた。

「心配かけて、ごめんね」

何も言わず、杏寿郎はAを抱き返した。力強くも優しく。互いの心臓の音に安堵して、2人は抱きしめ合ったまま涙を浮かべた。

「良かった……」

そんな2人に吊られるように、見守っていた炭治郎たちも涙を浮かべた。
舞い散る桜もまた、彼らを祝福するように、辺りを色鮮やかに染める。

「杏寿郎」
「ん?」

1度だけ腕を解き、Aは杏寿郎を真っ直ぐと見据えると、桜が咲いたような笑みを浮かべ、口付けを交わした。

「一緒に生きよう」

春に咲く桜のように、ほんの一瞬の輝きを、尊さに満ちた一生を、堕ちた桜のように、最期まで美しく生きていこう。
__________________________________________

それを、後に人々は奇跡と評した。燃え尽きた命を再び燃やした、1人の少女。
上弦の鬼に襲撃されてもなお、死者を出すことなく守りきった英雄として、彼女と、彼女の許嫁である杏寿郎の名は、代々鬼殺隊の希望として語り継がれたという。
彼女の名は、煉獄 A。柱ほどの力を持たぬ少女は、誰よりも強い心の持ち主だった。

あとがき→←卅伍 真の呼吸



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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時

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