卅肆 乾いた砂 ページ34
「……ごめんね」
泣きそうな顔で謝ってくる彼女は、杏寿郎を庇って鬼に腹を貫かれた。脳内で否定しても、長年の経験で分かる。あれはもう、助からない。
守れなかったのか、俺は。最愛の人を。
「うおおおぉぉぉ!!」
怒りのままに、杏寿郎は刀を振るう。
鬼も日が出るのを感じたのか、逃亡を図ろうとするが、杏寿郎の怒涛の追撃に苦戦している。
血を流して倒れるAは、竈門 炭治郎たちが看てくれている。ならば安心だと、杏寿郎は鬼に集中する。
本当なら、今すぐにでも側に駆け寄りたい。なぜ俺を庇ったんだ、守ってやれなくてすまなかったと。
【炎の呼吸 伍ノ型 炎虎】
【術式展開 破壊殺】
怒れ。心を、身を、魂を燃やせ。
神経を研ぎ澄ませ。怒れ、怒れ。
『杏寿郎!』
彼女の声が聞こえる。
幸せそうに笑うキミに、俺は惚れた。可愛げない上に、負けず嫌いで、こんな女性もいるのかと困惑するような性格だった。
けれど、強がるキミは真っ直ぐだった。誰よりも強い心の持ち主だった。
キミの父上が亡くなった時、キミは耐えていた。耐え難いだろうに、今すぐにでも吐き出したいだろうに、キミはただただ耐えていた。
『私は強いの!』
そんなキミだから、俺は支えたいと思った。どんな男よりも、キミに相応しい男になろうと。どんな苦痛からも守れる男になろうと。
【炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天】
【術式展開 空式】
「うおおおぉぉお!」
「あああぁぁぁあ!」
炎と陣のぶつかり合いに、周囲を吹き飛ばさんばかりの衝撃が響いた。
勝負は、決しなかった。
「きょうじゅろう……」
正確には、鬼に逃げられた。深追いをしようとした杏寿郎だが、Aの声に、冷静さを取り戻した。
「煉獄さん!Aさんが……!」
炭治郎は言葉を詰まられるが、それが何を指すのかなど、杏寿郎には分かりきっていた。
仰向けに寝かされたAは、目立った外傷はない。心臓の反対側、右の胸に開いた大穴を除いて。
「A……すまない……!俺は……」
守れなかった。キミを守ると誓ったのに。
何が柱だ。何が許嫁だ。最愛の人を守れずに、それは男でもなんでもない。
「何言ってんのよ……アンタは」
血が滲むほどに拳を握りしめる杏寿郎に、Aは苦笑を浮かべると、杏寿郎の手を握る。
「アンタはずっと……守って、くれたじゃない。だからどうか……」
自分を責めないで。
そう告げて微笑んだAの手は、乾いた砂のように、杏寿郎の手から滑り落ちた。
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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時