拾玖 愛しい人へ ページ19
押さえつけられた腕が痛い。アイツの腕に力が入っているが、恐らく無自覚だろう。
あっけらかんと言ってはいるが、アイツの中でもかなり勇気の要ることだったはずだ。なら私も、精一杯にそれに答える義務がある。
「……好きだよ。家族としてじゃなくて、男性として、杏寿郎が好きだよ」
そこに嘘偽りはない。本当は言わないつもりだったのに、杏寿郎は卑怯な奴だ。何年私が胸の内にしまいこんでたと思ってんのよ。アンタがいつか、他の誰かを好きになるかもしれないから、ずっと黙ってたのに。
「初めて会ったときから、杏寿郎が好きだよ」
しかしまさか、押し倒された状態で、こんなことを言う日が来るとは思わなかった。この関係が崩れるのが怖くて、言い出せずにいたいくつもの言葉が、今なら言える。
例えダメでも、きっと構わない。ここでフラれてもきっと、後悔なんてしない。
「愛してる」
負けじと言い放つ私に、杏寿郎は驚いたように目を見開くと、私の耳元まで顔を寄せてくる。
鼻には当然ながら、杏寿郎の匂いがした。触れる髪は、やはりくすぐったい。
「後戻りは出来ないぞ」
「……上等」
挑発的に笑ってやれば、杏寿郎は困ったように笑いながら、そっと口づけを交わした。
炎のような男、煉獄 杏寿郎。私はアイツの許嫁。超えられない壁で、憧れた背中。強いくせに、悲しいくらいに優しい。
その日私は、彼に触れた。中には人を痛みつけて楽しむ輩もいるが、杏寿郎はそんなことはなかった。むしろこちらを気遣い、優しく接してくれた。
夜が明け、私たちは再び山を下った。昨晩のことを思い出し、気まずい空気になりはしたものの、杏寿郎は全く気にした様子がない。
「俺の背に乗るか?」
「結構よ」
全身筋肉痛に見舞われた私に、杏寿郎はさぁ乗れ!と背中を向けてくるのだが、この歳で背負われるのはプライドが傷つく。
そうか、とどこか残念そうに呟く杏寿郎だが、心なしか、いつもより歩く速度が遅い気がする。
「杏寿郎は……お、お洒落な女性が好きなの?」
冗談っぽく聞いてみたが、返事はない。なんとなく予想はついていたので、やっぱりいいや、と笑いかけるが、何を思ったのか、杏寿郎は何も言わずに私との距離を詰めると、突然口付けをしてきた。
「俺はAが好きだ!」
「〜〜っ!」
顔が熱くなるのを感じ、私は杏寿郎を押しのけて山を下った。後ろからは、揶揄うような笑い声が響いてきた。
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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時