拾 名前 ページ11
音の正体は、すぐに分かった。青だったはずの空は薄暗く、陽の光が見えない。
遠くで、何かが光ったのと同時に、また音がなる。思わず身が強張ってしまったが、煉獄さんの手前、惨めな姿は見せられない。
「ヒッ……」
また、光がチカリと見え、音がなる。反射的に、わたしは煉獄さんの羽織を握ってしまう。混乱していたため、わたしは自分が何を握っているのかを確認する暇はなかったが……。
わたしは、雷が苦手だ。特に音が。
「雷が怖いのか?」
「……ご、ごめんなさい」
「なぜ謝る?人に苦手なものの1つや2つはある!気にすることはない」
とうとう雨まで降り出し、煉獄さんはわたしの手を握ると、手近な建物の屋根の下まで連れて行ってくれた。おいで、と近くに来るよう促す煉獄さんに、最初は首を横に振っていたが、最後にはわたしが折れ、煉獄さんの隣で蹲っている。
「……遠いな」
「え?」
何か煉獄さんが呟いたと同時に、わたしの腰に腕を回し、そのまま引き寄せられた。体が密着して、顔の距離も近い。
納得したように大きく頷く煉獄さんだが、わたしはそれどころではない。
先ほどまで、雷と雨の音がうるさかったはずだが、今はわたしの心臓の音のせいで聞き取れない。脈打つ音が、こんなに大きく聞こえることなどあるのだろうか。
この鼓動が伝わりはしないか心配で、煉獄さんの顔を見上げてみるも、特に変化はない。
「どうした?」
「いえっ……何でもないです」
声が裏返ってしまったが、そうか、と煉獄さんは何も指摘はしなかった。
意識しているのは、わたしだけなのだろうか。煉獄さんに向ける感情を、わたしは知っている。けれどそれは、認めてはならない。関係が、約束が、すべて壊れてしまうから。
「……A」
「えっ?」
突然名前を呼ばれて、煉獄さんの顔を凝視する。聞き間違いかと思ったが、また、Aと呼ばれてしまった。聞き間違いなどではなかった。
「Aと呼んでも良いか?」
思いもよらないことに、わたしは煉獄さんが何と言っているのか理解するのに時間がかかった。この人には、驚かされてばかりの気がする。
「な、名前で……ですか?」
「嫌だったか?」
そんなわけでは……と口ごもるわたしを、煉獄さんはどこか熱い視線を向けてくる。そんなことされては、わたしが断れるわけがなかった。
「分かった。ところでA!」
「はい?」
「呼んでみただけだ!」
なんですかそれ、と思わず笑ってしまった。
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squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時