漆 泣いた話 ページ7
雪がコンコンと降り積もる頃、2人の男女が夜の街を歩いていた。
学ランのような黒い制服に身を包み、纏った羽織の下からは、日本刀が僅かに顔を出している。
「今日はよく降るね」
「ああ。……冷えるぞ」
優しい顔立ちをした女性が、白い息を吐く。白い手は凍えて赤くなり痛々しい。
隣を歩く、狐のお面に宍色の髪を持つ端正な顔立ちの男性が、自身の羽織を脱ぐと、そのまま女性にそっと掛けてやる。
ありがとう、と女性は花のような微笑みを浮かべると、男性の付けていたお面に手を触れる。
「もう、8年になるんだね」
懐かしむように遠くを見つめる女性に、男性、錆兎はそうだな、とだけ答える。
8年前に最終選別を終えた彼らは、既に鬼殺隊として活動している。任務が異なる時もあれば、共に行動するときもある2人は、今年で21を迎える。
彼らの同期であり親友でもある義勇は、鬼殺隊でも最高位である柱へと就任している。
「お前は今、幸せか?」
鬼殺の剣士として生きると決めた日、錆兎は女性を遠ざけようとした。鬼と関わらない方が、女性は幸せだと思ったからだ。
けれど今では義勇と同じく、いや、それ以上に錆兎にとってなければならない存在になっていた。
だからこそ、本当に幸せなのかと疑問だった。
「どうして赤子は、生まれてすぐに泣くと思う?」
2人が出会って間もない頃、女性が口にしたその問い。ほんの一瞬だけ、驚いたように目を見開いた錆兎に、女性は目を細めて笑う。
錆兎に掛けられた羽織を両手で抑えると、女性は雪の中でステップを踏む。
「赤子は、生まれてきたのが悲しくて泣いてしまうんだって」
空から降る雪を見上げて、女性は悲しげに呟くと、クルリと錆兎の方へ振り返る。
「でも、私はそうじゃないと思う。会いたい人に会えないのが寂しくて、泣いたんだと思う」
昔のような内気な雰囲気はどこへやら、今では随分と明るい性格になったな、と錆兎は苦笑する。どうして彼女がここまで変わったのかは、分かるはずもないが。
「だから私は、幸せだよ。会いたい人に……アナタの側にいられて、幸せだよ」
何度も、彼女は幸せだと口にする。
何を思ったのか、錆兎は女性の手を取ると、温めるように両手で握りしめる。
驚いたように錆兎を凝視する女性が可笑しくて、錆兎は頬を緩める。
「俺と一瞬に、生きてくれるか?」
しばらくの沈黙の末、女性、Aは首を縦に降る。
真っ白な不香の花の中で泣くAは、哀しみで泣いてはいなかった。
81人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!こちらこそ、面白いストーリーを提供していただきありがとうございます。頑張ります! (2019年8月3日 17時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
シンア - 続編頑張ってください!!お花見のストーリありがとうございます (2019年8月3日 17時) (レス) id: 35c1a3a4d0 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - りんごさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月2日 22時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
りんご - foooooo!!!))ついに来ましたね、続編!!更新頑張ってください (2019年8月2日 21時) (レス) id: 65b8d779c9 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!夏に合わせて海に行ったりとかを考えていたのですが、お花見も良いですね。参考にします、ありがとうございます! (2019年8月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:squid | 作成日時:2019年6月1日 20時