陸 継いだ話 ページ6
今までの少女からは想像もつかないほどの迅速な動きに、鬼は一瞬遅れを取る。
だが、いくら速かろうとも頸は斬れない。目の前の少女に、そんな力はない。何より、今は身体中に傷を負い、まともに立つことすら出来なかった。
そんなボロボロな状態で、少女が頸を斬れるわけがないと。
片方の腕を胸の前で交差させるように構えたそれは、水の呼吸にある、水面斬りとよく似たもので、違いといえば音だけだった。
【雪の呼吸】
地面を蹴って大きく跳び上がった少女から、真冬の頃のような白い息が出ている。その白い息が空気の中に溶けるように、少女の刀が消える。
【壱の型 雪辱】
パリンと何かが割れるような音と共に、鬼の頸が宙を飛ぶ。鬼を斬った彼女の刀は、氷のように凍りついていた。
雪辱。カタナカではリベンジとも言われ、競技などで負けたことのある相手を破り、名誉を取り戻すという意味で使われる。
少女の用いた【雪辱】は、彼女自身が傷を負えば負うほどに威力を増すのだ。
鬼との勝敗が決したのとほぼ同時に、藤襲山に日の出が昇り始めた。
「……すまなかった」
東へ向かう途中に、錆兎は少女を見ることもできずに、申し訳なさそうに呟く。
錆兎の裾を、後ろを歩いていた少女がクイっと引っ張った。
錆兎が振り返ると、そこには今にも泣き出しそうなほど目に涙を溜めた少女の姿があった。裾を引いていない方の手で、自分の羽織を握りしめた少女は俯いたままで声を震わせる。
「アナタが助けた人が、アナタが危ないって……伝えてくれたんだよ」
手鬼に喰われかけていたところを錆兎に救われた男は、東の方で義勇を看病していた少女に助けを呼びに来たのだ。
もしも彼が来なければ、少女は間に合わず、錆兎は頭を握りつぶされていただろう。
「アナタが守った人たちが、アナタを守ったの」
アナタの優しさは、意思は継がれてるんだよ。
「だから……もっと頼ってよ。アナタが死んだら、みんな悲しむからっ……」
1人山を駆け回る錆兎に、少女が言えずにいた言葉は、錆兎の優しさを否定してしまうかもしれない。だから言えずにいた。けれど今は、目の前で錆兎を失いかけた少女を止めるものはない。
「アナタまで、私をおいて逝かないで……っ!」
独りにしないで、と大粒の涙をこぼす少女は、あの日のように泣いていた。両親を亡くしたときと同じように、泣いていた。
どうしていいか分からずにいた錆兎は、ぎこちないけれど優しく、少女を抱きしめた。
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squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!こちらこそ、面白いストーリーを提供していただきありがとうございます。頑張ります! (2019年8月3日 17時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
シンア - 続編頑張ってください!!お花見のストーリありがとうございます (2019年8月3日 17時) (レス) id: 35c1a3a4d0 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - りんごさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月2日 22時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
りんご - foooooo!!!))ついに来ましたね、続編!!更新頑張ってください (2019年8月2日 21時) (レス) id: 65b8d779c9 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!夏に合わせて海に行ったりとかを考えていたのですが、お花見も良いですね。参考にします、ありがとうございます! (2019年8月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年6月1日 20時