外伝ノ捌 ページ31
『錆兎が幸せになりますように』
"桃鬼桜"にそう願った。非の打ち所がない錆兎は、きっと綺麗な人と結婚する。そう思っていたから、錆兎に婚約の話が出た時は特に驚くようなことはなかった。むしろ、やっと新しい家族が出来るんだ、良かったね、と。
昔からの友人が、誰かのためにと傷だらけになった錆兎が、ようやく普通の幸せを手にできる。友達として、心から祝うべきだ。
_______なんでかな、それ以降、胸が痛くて痛くて仕方ない。苦しくて仕方ない。泣きたくなって、叫び出したい。知りたくなかった薄汚い感情に蓋をして、それが爆発しないように耳を塞ぐ。
聞こえない、知らない。見えない、感じない。私は錆兎の友達だから、それ以上は何もないから。
「婚約の話は断った。これからも受ける気はない」
「……そうなんだ。気になる人でもいるの?」
それでは錆兎が幸せになれないのではと思う反面、まだ誰のものにもならないんだと安堵する自分がいて嫌になる。こんな感情なんて、持って生まれたくなかった。
そんなドロドロとした感情を振り払うように、私は錆兎を揶揄うように肘で突っつく。この距離が、私たちの距離だから。
「A」
名前を呼ばれた。今までこんなこと何度もあった。数え切れないくらいに名前を呼ばれてきたはずなのに、どうしてだろう。心臓が身体中に必死になって血を巡らせる。そうしないと身体が死んでしまうんだよと、忙しなく。
「……どうかした?」
質問に答えてくれないから、聞きたくないから、私は首を傾げてカラリと笑う。笑えているのかは分からないけれど、笑わないといけない。
「A」
「うん、ここにいるよ」
錆兎にしては珍しく、私の質問には答えてくれなかった。想い人がいるのか聞いただけなのに、どうして私の名前を呼ぶんだろう。そんなに呼ばなくてもちゃんと聞いてるよ。そんなに何度も呼ばなくても、私はここにいるよ。
「A」
何でそんなに真っ直ぐな目でこっちを見るのか。昔より大人びた表情で、でもどこかまだ幼い笑みで、何故私の名前を呼ぶのか。
違うよね、深い意味なんてないよね。これは私のただの勘違い。脈打つ鼓動なんて聞こえないし、それが何なのかなんて知らない。
「俺は……」
錆兎の顔が見えない、見られない。自分の中で体温が高まるが、何も感じない、感じたくない。
知らないフリをした。錆兎が私に向けてくれる優しい眼差しを。私が錆兎に向けるドス黒い感情を。
「Aが好きだ」
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squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!こちらこそ、面白いストーリーを提供していただきありがとうございます。頑張ります! (2019年8月3日 17時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
シンア - 続編頑張ってください!!お花見のストーリありがとうございます (2019年8月3日 17時) (レス) id: 35c1a3a4d0 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - りんごさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月2日 22時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
りんご - foooooo!!!))ついに来ましたね、続編!!更新頑張ってください (2019年8月2日 21時) (レス) id: 65b8d779c9 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!夏に合わせて海に行ったりとかを考えていたのですが、お花見も良いですね。参考にします、ありがとうございます! (2019年8月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年6月1日 20時