弐 修行の話 ページ2
青年には幼馴染がいた。
気の弱い少女だが、それ以上に優しい心の持ち主だった。
集団に馴染めずにいる子供に積極的に声をかけ、迷子の子を背負って親探しをしている姿を、青年はよく見かけていた。
迷子の子と一緒に自分も迷子になるという、少々頭の残念な少女だが、そこはいつも青年がカバーに回っていた。
だがそんなある日、青年たちは全てを奪われた。鬼という存在から、青年は家族を守れなかったのだ。
己の弱さへの怒りを糧に、青年は自分のような犠牲者を出さないために、鬼殺隊になる道を選ぶ。
「……私も行く」
だが青年は少女に、出来ることならば、幸せな道を選んで欲しかった。普通の家に嫁ぎ、子を持ち、普通の幸せな生活を送ってほしいと願った。
少女の選択など、分かりきっていた。優しい少女だからこそ、見て見ぬ振りなどできるわけがないと。
もしも少女の身に何かあったときは、自分が少女を守ろうと、友人の義勇と共に、青年は稽古に励んだ。
やがて月日が流れ、鱗滝さんから最後の修行を言い渡される。それは、厚さ1丈(約3.03メートル)ほどの巨大な大岩を斬ることだった。
言わずもがな、ハンマーなどの器具を使って砕いてはいけない。刀のみで斬るのだ。
青年と義勇は難なくソレをこなし、苦戦しながらではあるが、少女も岩を斬るのに成功した。
最後の修行を終えた青年たちが向かったのは、1年中藤の花の咲く山、藤襲山。そこで、鬼殺隊に入隊するための最終選別が行われる。
3人の中でも特に超越した実力を持つ青年は、最終選別中にもその剣術を発揮させた。自分の身1つ守るのが精一杯であるはずその山の中で、誰1人犠牲を出すまいと立ち回っているのだ。
山の鬼のほとんどを、青年が斬ってしまったのだ。そのため、最終選別の脱落者はまだいない。
「……錆兎」
毎晩毎晩山の中を走り回る幼馴染に、少女は師からもらった狐のお面を付け、心配そうに青年、錆兎に歩み寄る。
日が昇っている時間だけが、少女が錆兎と話せる僅かな時間なのだ。
少女の傍で、額に傷を負って眠っている義勇がいるが、傷が深いのか、一向に目を覚ます気配はない。
「どうした?」
溜まりに溜まった疲労に身体がフラつくが、そんな無様な姿は見せまいと、錆兎は雪のように澄んだ、真っ直ぐな目を細めて笑いかける。
「……ううん。何でもない」
何かを言おうとして、けれど結局、少女は何も言わなかった。
そしてとうとう日が暮れ始め、最終選別最後の夜が始まろうとしていた。
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squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!こちらこそ、面白いストーリーを提供していただきありがとうございます。頑張ります! (2019年8月3日 17時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
シンア - 続編頑張ってください!!お花見のストーリありがとうございます (2019年8月3日 17時) (レス) id: 35c1a3a4d0 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - りんごさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月2日 22時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
りんご - foooooo!!!))ついに来ましたね、続編!!更新頑張ってください (2019年8月2日 21時) (レス) id: 65b8d779c9 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!夏に合わせて海に行ったりとかを考えていたのですが、お花見も良いですね。参考にします、ありがとうございます! (2019年8月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年6月1日 20時