夢 ページ7
『A』
聞き覚えのある声が、私の名前を呼ぶ。
振り返ると、佐野さんが笑顔で立っていた。
……これは夢だ。
佐野さんが私の名前を呼ぶはずがない。
『好きだよ……ずっと。Aと付き合えるなんて、思えなかった』
そう言って後ろから抱きしめる佐野さん。
変な夢だ。
でも、嫌な気持ちはしない。
……モヤモヤするだけで。
バイト帰り。
マンションに着く前、私は突然思い出した。
「今朝、あなたが夢に出てきました」
「俺が……ですか？」
「はい。夢の中で私は……佐野さんと付き合ってました」
あれは夢、夢の話。
現実なんかじゃない。
だけど、恥ずかしい。
「そう言えば、俺も……雨宮さんが夢に出てきて、デートに行ってました」
「……私はあなたに抱きしめられてました。
本当に、付き合っちゃうんですかね」
「嫌……ですか」
「嫌じゃないんです」
不安なだけだ。
「だって……ストーカーされてたんですよ？それなのに、付き合うって……
好きになっても良いんですか？……そう思うと、なんか……不安になってきて」
「雨宮さん……好きになるのに不安になったら……人を好きになれませんよ」
「あの」
部屋に着く手前、私は佐野さんの服の袖を掴んで
「……付き合うって言ったこと、考えてみます。だから、今度……私とお出かけしてください」
この人といると、私は違う人のようになってしまう。
今もそうだ。
佐野さんは少し驚いて
「わかりました」
と笑顔で言ってくれた。
「じゃあ、あの……行ける日は、連絡します。それでは！」
焦って変なことを口走ったかもしれない。
でも、折角……お出かけするんだから、オシャレしないと。
夢のせいで、こんなことになるなんて思わなかった。
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作者名：アンドロメダ | 作成日時：2019年9月11日 20時
