【A3!】舞台から落ちたら演劇の世界にいました４

情けない自分 ページ10

椋side

さっきからずっと心臓がうるさくて、顔が熱くて。

(……)

今僕の隣に座ってるのがあの時見た王子様だと思うと、なかなか顔があげられない。

(ど、どどうしよう……！)

下を向いたままなんて失礼だって分かってるけど、緊張しちゃって何を話せばいいか分からないし、のろまな僕のせいでイラつかせちゃうかもしれないし。

このお兄さんだけじゃない。
あそこで楽しそうにしてる皆さんも、僕の性格を知ったらきっとうんざりすると思う。

(……)

想像したら、今度は胸がちくちく痛み始めた。
顔の熱も冷めてくのが分かる。

(やっぱり来なきゃ良かったかな……)

分かってたけど、皆僕とは違って明るくてキラキラしてるし。
さっきこの劇場に入って皆を見た時、あの輪の中に僕は入れそうにないって思った。

もしお兄さんが僕に気づいてくれなかったらって考えると怖くて怖くて。

今だって隣にいるのに、声をかけてくれたお礼すら出来ない。本当にダメで情けない。

(……っ)

胸が張り裂けそうで、両手で持っていたフライヤーを握りしめる。

｢それ春組のフライヤー？｣

｢え……｣

ぎゅっと目をつぶって下を向く僕に、話しかけてくれたのは隣に座るお兄さんだった。

｢見に来てくれたんだ、春組公演｣

｢あ……はい、｣

その優しさが嬉しいのと同じ位、がっかりされないかが怖くておどおどする僕。

こんなつまらない返事じゃ呆れられちゃうって分かってるのに。

｢……｣

……お兄さんも黙り込んじゃった。
つまらないって思ったのかな。僕がさっきからずっと話さないダメダメな奴だから。

｢あの、ごめんなさ｢そういえばさ｣はいっ！｣

謝ろうと思ったら、お兄さんはずっと僕の方を見ていて。
僕の言葉に被っちゃったのを謝ってから、またじっと見つめられる。

｢名前、まだ聞いてないなって思って｣

｢あ……向坂椋、です。すみません……｣

｢椋ね、オッケー……って、なんで謝るんだよ｣

｢いやその、すすみませんっ！｣

あああ何やってんだ僕！
謝ってばかりじゃお兄さんに迷惑なだけなのに……！

(なにか話さなくちゃ……！)

一人で慌ててると、今度は名前を呼ばれた。

｢あのさ、椋って人と話したりとか苦手だったりする？｣

｢……！｣

心臓がどきっとする。

｢あ、別に試してるとかじゃないからな｣

……今度こそ、ちゃんと喋らないと。
自分の洋服をぎゅっと掴む。

｢苦手です……｣

伝えると、お兄さんは笑って、

｢俺も｣

そう言ってくれた。

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