運命の千秋楽 ページ34
ーーー人の体温や言葉って、案外安心するんですよ。
そう言いながら、俺は右手で隣にいた監督さんの左手を取る。
向かい合うようにして、今度は逆の手を。
「え？」
「「「「「！！！！」」」」」
「こうやって」
驚く皆をスルーして、合わせた監督さんの手の上に俺の手を被せた。
別にふざけてるんじゃなく、本当に俺が前にいた劇団でやってた事だ。
最終公演前、役者全員が監督とハグをするという謎の恒例行事。
ここじゃ性別が違う分そんな事出来ないが、手を握るだけでも効果は十分。
一見意味ないように思えるんだけど、これが結構効くんだよな。
相手が監督さんなら尚更だろうし。
「Aくん……？」
「すみません。説明する時間なかったんで」
謝りながら、ぱっと監督さんの手を離す。
特に驚いてない辺り、やっぱ役者経験で異性との交流には慣れてるらしい。
「コロス。今すぐ」
「真澄くん！？」
「落ち着け真澄！」
……やばい。真澄の目がヤバイ。
咲也と綴が抑えてなきゃシャレにならんやつだこれ。
「まじないって言っただろ真澄。というか、今から全員今のやってもらうし」
「え！？」
「マジか」
「監督は俺が守る」
うん。真澄は時間かかるし一番最後な。
＊ ＊ ＊ ＊
一通り監督さんから言葉を貰い、最後の真澄を皆で注意深く見張っている時。
「あの、Aさん！」
後ろから咲也に声をかけられた。
「どうした咲也」
「その……えっと、」
口籠もりながら、両手を宙に彷徨わせる咲也。
……どうやら、俺にも監督さんと同じ事をして欲しいらしく。
「咲也」
「っ！」
この一ヶ月ですっかり逞しくなった背中に両腕を回し、力強く抱きしめる。
至さんの怪我が分かった時から、咲也とは秘密のアドリブ練習を沢山していた。
今更どうこうしろなんて言う気は無いし、第一伝えたい事はもう既に散々言ってある。
だから一言でいい。
「頼んだぞ、座長」
舞台に立てない俺の分まで、どうか至さんを支えてやってくれ。
両腕に更に力を込めると、いつも通りの元気な返事と共に、咲也は俺の服を強く掴んだ。
そして振り返り、待っている真澄達の元へと駆けていく。
「皆、楽しんできてね！」
監督さんのその言葉を最後に、開演を知らせるブザーが鳴り響く。
舞台上の役者達は、今までで一番輝いていて。
「ありがとうございましたー！！！」
ーーー最終日のロミオとジュリアスは、過去最高の歓声を浴びて幕を閉じたのだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1327人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
祐(プロフ) - こずめさん» お返事遅くなりました！(名前変わっててすみません)もう文章からこの作品を好いてくれてるのが凄く伝わってきます私も貴方様が好きですありがとうございます。夏組編もよろしくお願いします！ (2018年7月21日 23時) (
レス) id: 71340f3351 (このIDを非表示/違反報告)
Syu(プロフ) - みかさん» お返事遅くなりました！本当ですか！？みかさんのA3!との出会いに関われたなんて嬉しいです！この作品書いてて良かったです・ﾟ・(つД｀)・ﾟ・ (2018年7月21日 23時) (レス) id: 71340f3351 (このIDを非表示/違反報告)
Syu(プロフ) - イオリさん» お返事遅くなりました！そう言って貰えて凄く嬉しいですヽ( ´ ▽ ` )ノ私も夏組大好きです！ (2018年7月21日 23時) (レス) id: 71340f3351 (このIDを非表示/違反報告)
Syu(プロフ) - 翔香さん» コメントありがとうございます！大変お待たせ致しました！またこれからゆっくりではありますが続ける所存ですのでよろしくお願いしますヽ( ´ ▽ ` )ノ (2018年7月19日 16時) (レス) id: 71340f3351 (このIDを非表示/違反報告)
Syu(プロフ) - Lilyさん» コメントありがとうございます！初期の頃からずっと支援してくださっていたなんて嬉しい限りですヽ( ´ ▽ ` )一応冬まで続ける所存ですので、これからも読んでやってくださいませ＼( 'ω')/ﾊﾞｯ (2018年7月19日 12時) (レス) id: 71340f3351 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：祐 | 作成日時：2018年3月13日 10時
