自身の弱さ ページ7
「はっ、は……」
乱れる呼吸を落ち着かせ、額に流れる汗を拭う。
数時間前、咲也達同様雄三さんにボロクソ言われた俺は、監督さんに夕飯を任せてすぐさま劇場に来ていた。
『諦めてねぇだろ。役者』
その言葉が悔しくて、さっきから何度も何度も一人演技を繰り返しては、こうして舞台の端で蹲る事が続いて。
一体今が何時なのか。スマホも持ってきていない俺にはそれすら分からない。
「はっ……くそっ!あのクソオヤジめ……!」
舞台の壁際まで戻り、その場に大の字に寝転がると暴言を吐く俺。口が悪いなんて知るか。苦手なもんは苦手なんだから仕方ないだろ。
ゲーム中の至さんと一緒だ。唯一の違いは相手がモンスターか人間かくらい。
いや、あいつは人間の顔をしたモンスターだからセーフだ。
……なんて強がっても虚しいだけだが。
過去に演じたどの役を再現しても、舞台端に背を向けた途端足が竦んで動けなくなって。
けど壁際に戻る度にあの人の鼻で笑う顔が浮かぶもんだから、それがまたさらに俺をイラつかせて。
もう何度それを繰り返したか、途中から数えるのすら嫌になってやめた。
「人の気も、知らないで……好き勝手言いやがって……!」
浅い呼吸を繰り返し、込み上げる感情を言葉にする。
いきなり胸ぐら掴んで来たくせに、俺がこの世界の人間じゃない事を知らないくせに。
こうして、舞台に立ちたくても身体が思うように動いてくれない事を知らないくせに。
『てめぇにあいつらが見届けられる訳がねぇ』
「っ……!!」
視界が滲み、パーカーの袖で目元を隠す。
そんな、知ったふうな口を聞いてくるな。
先輩面すんな。
俺をーーーそんな失望したような目で見るな。
分かってるさ、役者としてまだ舞台に立ちたいと思ってる事位、自分が一番。
けど、舞台に立てないんじゃどうする事も出来ない。この現状を打破する術が分からない。
「なんで、俺は……っ!!」
ーーーこんなにも好きな舞台を、こんなにも怖がっているんだろうか。
芝居が好きな咲也達を応援する反面、どんどんと成長し、前を歩く彼らに置いてかれるのを怖いと思う自分がいる。
所詮「家政婦」な俺には稽古を受ける資格もなければ、そもそもどの組に入る気もない。
この劇団を見守りたい、影で支えたいというのは本心だからだ。
(俺はこれから一体、どうすればいいんだよ……)
唇を噛み締め、強く目を閉じる。
抑えた腕をすり抜けて流れる屈辱を、俺は今後一生忘れる事はないだろう。
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夢花 ゆめいろ星(スター)の夢花(プロフ) - Syuさん» いえいえ! なるほど……あの二人の会話がすごく可愛くて癒されましたwはい!応援させてもらいます! (2018年3月21日 0時) (レス) id: f2643ccfd4 (このIDを非表示/違反報告)
Syu(プロフ) - rin_arsmateさん» 申し訳ございません。早急に編集致しました。ご指摘ありがとうございます (2018年3月12日 22時) (レス) id: 71340f3351 (このIDを非表示/違反報告)
rin_arsmate(プロフ) - 偽善者が犠牲者になっています。 (2018年3月12日 22時) (レス) id: 4f08260cf0 (このIDを非表示/違反報告)
Syu(プロフ) - 夢花 ゆめいろ星(スター)の夢花さん» ご指摘して頂いた上に感想まで……!ありがとうございます!三角は凄く作りやすくて楽しいです。これからも頑張らせていただきますね (2018年3月12日 17時) (レス) id: 71340f3351 (このIDを非表示/違反報告)
夢花 ゆめいろ星(スター)の夢花(プロフ) - Syuさん» いえいえ!あ、それと、凄く面白い作品ですね!!!本編を知っているからこそ不安にもなるし、支えていきたいのも舞台に立つのが怖くとも演技をやりたいって気持ちも凄く伝わってきて…めちゃめちゃ感動しました!個人的に綴と三角とのシーンがお気に入りですw (2018年3月12日 3時) (レス) id: f2643ccfd4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:祐 | 作成日時:2018年3月4日 17時