【A3!】舞台から落ちたら演劇の世界にいました２【男主】

迫真の演技 ページ48

神木坂から離れ、俺の方に向かってくる晴翔。

(なんだ、一体何をーーー)

すぐに動けるように足に力を込めた途端、晴翔は俺の目の前で何をする訳でもなく、ただその場に片膝をついて丸くなり出した。

｢は、？｣

考えが読めず驚く俺に、晴翔は突如腕を抑え苦痛に顔を歪める。

まさかーーー。

そう思った時には既に遅く、

｢助けてくれ！MANKAIカンパニーの奴が俺に手を！｣

あっという間に、周囲の目は晴翔に釘付けになっていた。

｢え、何あれ喧嘩？｣

｢あれってGOD座の晴翔じゃないか？｣

周囲の声に、俺はハッと意識を浮上させる。あまりにも唐突だった為、一瞬とはいえ完全に思考を放棄してしまっていた。

(くそ、やられた……！)

丞がこれでもかと目を見開いている辺り、神木坂と晴翔によって仕組まれたのは間違いない。

何かしら行動を起こさねば、俺が原因でMANKAIカンパニーが潰されてしまう。
現に周りの通行人達からも、よくない噂が流れ始めている。

(どうすれば……！)

考えようとした所で、やめた。
大した特技もない俺がこの状況をひっくり返す術なんて、一つしかない。

何より、あんなに頑張ってる咲也達の舞台を、俺が台無しにするなんて絶対しちゃいけない。

大きく息を吸いこみ、ゆっくりと吐く。

｢っ……兄さん！｣

俺は両膝を折りたたみ、晴翔と同じ高さまで目線を下げた。

｢は……？｣

驚く晴翔に構わず、俺は演技を続ける。

｢兄さん……もう、こんな事はやめよう！｣

涙を流しながら懇願する俺は、貧乏育ちの兄弟の弟。生きる為、必死に嘘をついてまで金を稼ごうとする兄を止める弟。

｢こんな事する兄さんなんて……俺、もう見たくない！｣

些か強引ではあるけど、人の心さえ掴めれば問題は無い。実際さっきまで騒いでいた通行人達も、今では演技に引き込まれている。

｢な、ちがっ、これは！｣

誤解を解くように動き出す晴翔を止めるべく、その手を両手で包み、俺の額へと持っていく。

｢俺達が貧乏だから……だから兄さんが毎日こうしてお金を集めてくれる。けど、その度に兄さんが傷付くのをずっと見てきた……。お願い兄さん。俺にはもう、兄さんしかいないんだ……！｣

｢っ！｣

言葉と共に手を握る力を強めると、背後から鼻をすする音がいくつか聞こえてきた。

そろそろ潮時だろう。

俺は立ち上がり、深く頭を下げる。

｢以上、GOD座によるストリートACTでした！｣

こんなに沢山の拍手を貰ったのは、この世界に来て初めてだった。

※続編について→←神木坂レニ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す