相席喫茶・外伝

相席7(高校生~大学生) ページ7

僕はAが笑う顔をよく描く。

理由は単にその表情が好きだから。

そんなこっ恥ずかしいこと絶対本人には言ってやらないけど、僕は常々思っている。



｢…露伴…｣



呟き、僕の前で悲しそうに泣く。

そんな顔、初めて見た。

情欲を煽動される顔だ、そう第一に思ってしまったことは反省している。



『…ど、うした？何かあったのか？』

｢…｣

『黙ってちゃ分からないだろ』



読んでもいいが、無理やりは趣味じゃない。

喋ってくれ、何か一言でいいから。



｢…仕事…｣

『もう終わっ…と』



言い切る前に彼女は僕に飛びついた。

すすり泣く声だけが僕の胸元から聞こえる。

何だか分からないけど、気分が悪い。

彼女をこんな風に泣かせた者がいるというのか？



｢ね、抱いて｣

『…は？』

｢お願い｣



上書きして、と彼女が言ったのを僕は聞き逃さなかった。

ぐっと頬を持ち上げ、彼女の顔を上げさせた。

涙でぐちゃぐちゃになっている。



『…何があった』

｢…笑わない？｣

『そんなわけないだろう』



話してくれ、とできるだけ優しく言うと、さらに涙がぼたぼたと零れた。



｢…今日、友達と遊びに行ってたの。電車に乗ったんだけど｣

『ああ』

｢ち、痴漢…されて。触られるまではいい…よくないんだけど、…お、押し付けられて｣



感覚が残ってて気持ち悪い、とその場に座り込んでしまった。

爆発してしまいそうな怒りに見舞われるが、今はそれを優先すべきではない。

彼女を抱えてベッドに運び、額に軽く口をつけた。



『今日は寝ろ。起きたら風呂に入るといい。仕方ないからご飯も作っててやる』

｢…でも｣

『そんな状態の君を抱いたって僕は楽しくないんでな』



寝るまではいてやるよと毛布をかけると、ほんの少しだけ笑った。



｢寝てもいてよ｣

『どうだかな』



さっきより落ち着いたらしい。

僕はAを寝かしつけながらそっと胸を撫で下ろした。



『…さて』



さっきの話だと、おそらく駅員には突き出しているはずだ。

友達がいたと言っていたし、調べやすい。



『…寝たか？』



返事は返ってこないが、繋がれた手だけが握りしめられている。

振り払えないこともないけど、今日だけはこの岸辺露伴の右手を拘束する権利を与えてやる。



『全く…贅沢だな、君は本当に』



それを贅沢だと思わないところが贅沢だ。

手を持ち上げて、甲に軽くキスを落とす。



『…許さないさ、絶対に』

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