テンダーサイン７’ 【N.K】 (ページ6)

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２１６．逆上。ページ6

その声で一瞬で我に戻った。

智くんからの手を振り払って、一気に立ち上がる。

「和也くん…」

私のか弱い声に和也くんは心底心配した様子だった。

「どうしたの、なんで泣いてるの」

早口で私の両肩を手でつかみ、全身を見る。

あぁ、この人は本当に心の底から私を心配してくれているんだ。

「和也くんは何で…」
「俺は…車の中に忘れ物があったから。」

「まだ引き返せる距離だったから」と和也くんは私にリップクリームを手渡した。

私がいつも愛用していて、多分、車の中でも塗ったやつだ。

「そう、なんだ…ありがとう…」
「でも今はそれどころじゃないよね。」

和也くんは冷静に私に返事を求めるような声で、その状況を見ている智くんを見た。

「アンタ、Aちゃんを泣かせるようなことしたわけ？」

和也くんが智くんをギロリと睨む。

智くんはひるむことなく、マイペースにキョトンとしている。

「んー…しちゃったかもね、結果的に。」

智くんの言いたいことが心からわかる私だけど、これを第三者が聞いたら違う意味でとらえてしまうと思う。

路上で男女がくっついていて、しかも女のほうは涙を流している。

それを見てしまえばきっと逆上してしまうだろう。

それでも和也くんは私を優しく抱きしめて、何とか平和にこの場を終わろうとしてくれていた。