89話 ページ10
「…………ろっぽんぎ」
メガネ君に背負われながらそう呟いた。
「そ。お前オレのこと避けるのに自転車で一回転したろ」
「………………あ」
翔奏のケーキを買いに行った日だ。あの時のお兄さん達か。
「やっと思い出したかこのポンコツ」
「ごめんねメガネ君」
「竜胆だっつってんだろ落とすぞ」
「あばばばばごめんなさい」
落とされかけて慌てて首にしがみついた。
「オレは蘭」
「竜胆君とはいた兄」
「そこは変わんねぇのな」
自分が背負われたことにより仕事を失った松葉杖がはいた兄によってぶんぶん振り回されている。
単純に危ねぇ。通行人もドン引きだ。
「イザナ何で遅れたの？」
何となく予想はできるが……念の為に。
「あ？掃除。遅くなりそうだから近くにいた蘭と竜胆に迎え行かせたら揉めてるしよ……お前本当に手ェ掛かる」
「やっぱり掃除……」
綺麗になった？
「はっ。愚問だな」
「一掃したと」
ご名答のようでイザナはくつくつと笑った。
楽しそうで何より。その特服に付いている血は見えていないフリをするのが正解のようだ。
「大将マジで敵味方関係なく容赦ねぇんだよなぁ」
「さっきも本気で蹴られてたら多分骨逝ってた」
本気じゃない割に音ヤバかったけどね。
「ん……？それじゃあこの2人寄越したってことはこの2人が幹部ってこと？」
「まぁそんなとこ。オレ達以外にもいるから頑張って覚えろよ黒脛」
「鶴蝶は？」
「鶴蝶はオレらの中で1番強い」
つまり幹部ってことか……流石は鶴蝶。同じ下僕仲間として鼻が高い。
竜胆君の背中で誇らしげな顔をしていると、突如その竜胆君が声を掛けてきた。
「そんなお前は喧嘩できねぇの？」
「んー……？」
「そいつ喧嘩売られるだけ売られたら他人に転売するタイプだぜ」
「うわオレらよりタチ悪い」
「クズかよ」
言いたい放題だな。しかし否定できないのもまた事実……何て世知辛い。
「そもそもお前いつからそんな気色悪い濁水と墨汁ぶちまけたような死人と遜色ないドロッドロの気色悪い目してんの？大将知ってる？」
「気色悪いって2回言った？」
はいた兄を見つめていると危うく目を潰されかけた。サイコパスだろマジでこの男。罵倒もキレッキレだしよ。
「オレが孤児院で会った時にはもうその目だった。5歳くらいか？」
はいた兄にも竜胆君にもドン引いた目で見られたが、まぁあえて気付かないことにしておこう。
いつだって、嫌なことは掘り下げないのが1番だ。
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作者名：雨野夜都 | 作成日時：2021年11月28日 17時
