88話 ページ9
「ぅ、ぐ……」
頭の締め付けから解放され思わずその場にしゃがむ。
1滴2滴と包帯から染み出た丸い血が地面に落ちる。
関節を外さんとするメガネの手も気付いたら離れていた。
後で包帯取り替えなきゃ……近くにドラッグストアあるかな。
「わ……っ」
ぐっと腕を掴まれ無理矢理立たされたと思ったらそのまま体を引き寄せられる。
ふわりと漂ってきた香りに柄にもなく安心し、肩口に顔をぐりぐりと押し付けた。
「何やってんだ灰谷ィ」
明らかに怒っていると分かる低いイザナの声。
からりとピアスが揺れた。
「い"……っ！」
「兄貴！」
……え、三つ編み美人さんもしかして男？うわ何て酷い詐欺なんだ。
「何やってんだって言ってんだろうがよォ。手ェ出せっつった覚えはねぇぞおい」
飾りはテメェらの耳じゃねぇのか？あ？とイザナはやはりキレ気味。
「次はテメェだぞ竜胆」
「ちょっ……大将悪かった！悪かったって……う"ぐっ！？」
もう1回重たい音。
ちらりと横目で見ると両者共に地面に伏していた。
黒脛がどちら様ですかってアホなこと言うから、とメガネの男。
失礼な。8割お前らが悪いだろこれは。残りの2割は、って？遅刻してきたイザナが悪い。
「オレは蘭に此奴の記憶力はポンコツだから当てにすんなっつったぞ。テメェらの記憶力もポンコツになったか？」
「……何それオレ聞いてねぇよ兄貴」
しばしの沈黙。
そして────
「…………言われたっけ？」
衝撃のカミングアウト。
「……」
言葉も出ないとはこのことか。
「人の話聞けや。もう1発蹴られてぇのかテメェは」
「兄貴ィ！オレ蹴られ損じゃねぇか完全に！！兄貴のそういうとこ本当に嫌い！！」
「んな怒んなって竜胆。オレも蹴られたから変わんねぇじゃん」
「変わるわ！！全面的に悪いのは兄貴だから兄貴が蹴られるのは当然なんだよ！！オレは何も悪くねぇ！！」
「弟って何でこんな我儘なの？」
「っ〜！！この……っ！！」
「口回してる暇あったらさっさと立てお前ら」
取り敢えず一連の流れでメガネの方が苦労人ってことはよく分かったよ。
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作者名：雨野夜都 | 作成日時：2021年11月28日 17時
