87話 ページ8
深夜の脅しから早9時間近く。
何とか翔奏を説得して出掛けることに成功した自分は、約束の場所である横浜駅に何とか辿り着きイザナを待っていた。
道行く人達は怪訝な面持ちで自分の前や横を通り過ぎていく。
そりゃあそうだ。自分にはその目を向けられる要素があまりにも多過ぎる。
眼球然り、怪我も然り、この年齢でこの時間帯に此処にいることも然り。
時刻は午前9時10分。イザナの特徴的な白髪は群衆の中に見られない。
つまるところ遅刻である。
「遅刻するなってお前が言ったんだろ……イザナのバーカ」
小声で悪態をつく。本人に聞かれたら確実に病院逆戻りだ。
することもなく街灯に寄り掛かって地面を眺めていると、正面に人の気配が2つ。
「……？」
顔をあげればそこには黒いお揃いの服──恐らく特服だ──を着た似た顔の人間が2人。
………………見覚えがあるような、ないような。
ここにきて自分の対人関係に関する記憶力のなさが浮き彫りになった。
つーか三つ編みのお姉さん美人……ガタイがいい方は派手な髪色してんなぁ。
「黒脛おひさーボロッボロじゃんウケる」
「元気してたか……って聞くのは野暮か。重傷だな」
声を掛けられたが記憶はどうも呼び起こされない。マズいな三つ編みのお姉さんに申し訳ない。
「…………どちら様ですか？」
素直に言葉にしたのが間違いだった。
ぴきっと正面の2人が青筋を浮かべる。
そして一呼吸おき、
「い"……っ！？」
「悪いオレ聞こえなかったーもう1回言ってくんね？」
「オレも聞こえなかった」
ガタイがいい方から関節技をキメられ、美人からは包帯が巻かれた頭を鷲掴みにされる。
「い"、だ……あ"っ…ぁ"、ぐ……！」
ずきりとお世辞にもいいとは言えない痛みが走る。
いや、痛みに善し悪しの善しの部分なんて全くないが。しかしこれは悪しの中でも特に悪い方の痛みだ。
骨の軋む音が聞こえてくる。非常にマズい。
「お前オレら忘れるとかナメたことしてくれんじゃん。病院逆戻りがお望みか？あ"？」
「おいコラ何か言え」
「い、ぅ"……う"っぐ……」
「何か言えっつってんだろ。お前の口は飾りか？」
「ぅう……あ"、う"……っ」
ぎちぎちと締まる一方。
しかしその時。
バゴン！！と痛々しい音が頭上から聞こえてきた。
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作者名：雨野夜都 | 作成日時：2021年11月28日 17時
