86話 ページ7
「イザナ」
翔奏のこと何で入れたの、と電話口で問い詰める。
現在時刻は夜の12時。
あれから翔奏が介護疲れで寝落ちし、途端に暇となった自分は即刻イザナに電話をした。
要件はもちろん翔奏について。
取り敢えず話進める前に翔奏をベッドに寝かせないと……あれ、本来介護されるのって自分じゃなかったか？
いやいや翔奏相手にそんなこと考えても仕方ないのは自分が1番理解してるだろ。それに多少は動かないとダメ人間に拍車がかかる。
自分にそう言い聞かせ、比較的軽傷の方の足で片足立ちをして右手で翔奏を抱き上げベッドへ寝かせる。
布団を掛けてようやく一段落し、リビングのソファーに腰を落ち着けた。
「いいサプライズだったろ？お前がいるならって向こうも快諾したんだよ」
お前にベタベタ引っ付くのも無理矢理連れて帰ったのも癪に障るけどな、とイザナは冷たい声色で言う。
「サプライズにも限度ってもんがある。そもそもいつ知り合ったのさ」
「お前の携帯の連絡先勝手に見た。連絡したのはつい1週間前」
「あぁそう……」
もう文句を言う気力もない。こんなに個人情報の取り扱いガバガバなことある？
「明日お前暇だろ？」
「学校ある」
「冗談言うな。お前年明けてから行ってねぇだろ」
お前と翔奏が行かせてくれねぇんだろ。3年の3学期なのに出席日数危険だぞ。
通信制の高校受験するつもりだから別にいいけどさ……。
これはすなわち、お見舞い以降坊ちゃんにも隆にも会っていないことを意味している。
連絡先も翔奏が新しい携帯を持ってきたので真っ新。
現在連絡先が登録されているのは翔奏とイザナと鶴蝶と学校のみ。虚し過ぎる。
しかもこれだけ休んでいるのに学校からは音沙汰がない。十中八九過去最大の悩みの種が消えて万々歳なのだろう。何て薄情な。
「アジト来い。お前1人だけでいい」
はて、要件は何だろうか。
そんな自分の思考を見透かしたようにイザナは更に言葉を紡ぐ。
「メンバー紹介するから来い。っつっても幹部連中だけだけどな」
「……でも道分からない。車で連れて帰られたから」
「チッ……いちいち手ェ掛かるなお前は」
「ごめん」
「9時に横浜駅に来い。遅れたら殺す」
イザナが直々にお迎えしてくれるとは……申し訳ないな。
が、しかし────。
「正直渋谷駅まで──」
「駅までの道のりも怪しいとか言ったら……分かるな」
「誠心誠意横浜駅まで向かわせていただきます」
声がガチトーンだった。
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作者名：雨野夜都 | 作成日時：2021年11月28日 17時
