３２.司祭の苦悩 ページ35
ファウダーが広間を去り、本来ならその後に僕らも続いて出るはずだった。
だが、かつての師と仲間を名残惜しげに見つめるリュヌを見て、気が変わった。
「……王子殿」
僕が声をかけたのは予想外だったのだろう。
クロムはわずかに目を見開いた。
「君たちの戦に、僕の補佐官も連れて行ってはくれないか？」
僕がそう言いながら、背後にいるリュヌに目配りすると、リュヌは困惑したように瞳をゆらしながら僕を見る。
「ペレジアからは兵は出さないと聞いたが？」
「ああ。だが、僕の補佐官は軍師でね。イーリスの軍師殿は腕が立つと聞く。同行すれば、彼女には良い勉強になると思ったんだが……」
クロムの問いに僕は答える。
それでもクロムは、何か考え込んで言う。
「戦力は多い方がいい。だが、本当に同行させていいのか？補佐官だろう？」
「構わない。彼女もそうしたいだろうからね」
僕はそう言いながら、リュヌの背に手をまわして前に出す。
「その方が補佐官殿ですか？……なぜ補佐官殿まで顔を隠すのです？」
フードで顔を隠したリュヌに、フレデリクは眉に皺を寄せる。
「彼女は昔、顔に火傷を負ったんだ。顔は見ないでやってくれ」
今ここで正体がバレるのは面白くないので、僕はリュヌより先にそう言う。
火傷というのはもちろん嘘だ。
「それで……どうかな？軍師殿」
未だに僕の顔を直視しているルフレに、僕は聞いた。
「……こちらとしても、同行してもらえれば助かります」
ルフレがそう言ったのを聞き、僕はリュヌに耳打ちをしてから広間を出る。
その後を、インバースが付いてくる。
「良かったんですか？リュヌちゃんを王子様たちのところに行かせて」
リュヌに対して過保護なインバースは、心配そうに聞いてくる。
「ああ。それに、その方がリュヌも喜ぶだろうからな」
「……そうですね」
それでも複雑そうな表情を浮かべるインバースに、僕は苦笑する。
「リュヌちゃんがいないのなら、教団が荒れますね」
インバースはそう言い、ため息をつく。
ギムレー信教団内で、彼女は愛されている。
たまにラブレターなどという物を送ろうとした者もおり、僕自ら潰してまわった。
僕は彼女を、信用していないわけではない。だが、かつての師を、仲間を、人間である君自ら殺めることができるかい？
僕を友人と呼ぶ君に、大切な仲間を殺してまで僕の元に戻って来れるかい？
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005(プロフ) - とても感動しました！すごくシリアスな展開からのハッピーエンド素敵でした！ (2018年4月21日 21時) (
レス) id: 1fcd95cf50 (このIDを非表示/違反報告)
やまたこ - 面白かったです100点！ (2018年4月16日 7時) (レス) id: 4e05d1b0ac (このIDを非表示/違反報告)
リムス(プロフ) - 書き人知らずさん» こちらこそ、コメントをくださりありがとうございました。この物語を読んでくださり、ありがとうございます。 (2018年3月23日 12時) (レス) id: 27e40c194f (このIDを非表示/違反報告)
書き人知らず(プロフ) - 感動する物語をありがとうございました。 (2018年3月23日 11時) (レス) id: bdbb5f59e7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：リムス x他1人 | 作成日時：2018年3月1日 22時
