6話 ページ7
俺が天狗の面をつけた鬼殺の剣士と出会ったのは今から約二年前。出会った、と言っても俺が一方的に見かけただけだが、おそらく奴はあの場にいたことを知っていたのだろう。
その日は澄んだ色をした満月の夜だった。
「慣れないな……」
あまりに人間離れした身体能力を使いこなすことはとても苦難だった。視力、脚力、握力、柔軟力の調整。空腹に対するある程度の免疫。一歩間違えば壁に簡単に穴をあけられてしまうし人間を喰い殺す。そうなれば鬼殺の剣士との衝突は避けられなくなってしまって……。
「はぁ……」
その時俺は調整にあまりに神経質になっていたのだろう。鬼の存在と鬼殺の剣士の存在に気がつくのに遅れをとってしまった。
「……鬼殺の剣士か……」
それも大人で、おそらく経験豊富な剣士なのだろう。圧倒的に鬼が押されている。というか、今まばたき一つした瞬間、鬼の首がとうふのようにすっぱりと斬れて散ってしまった。
そして俺は知らなかった。あの剣士の鼻の良さと実力を。だからこそ油断していた。───その一瞬、天狗の男はこちらに足音すらたてず一歩、二歩とこちらへ近づいた。
その行動に驚きを隠せない。ドクンドクンと心臓の音が相手に聞こえてしまうのではないかと思うくらい、耳のすぐそばで鳴っていた。刀を納めていないことから気づいている。自身も殺そうと、滅そうとしている。
殺気すら感じさせない男に、俺は冷や汗が背に伝う時恐怖を心の底から感じた。
足が動かない。蜘蛛の領域に張られた糸に絡まったように。あるいは蛇に睨まれた蛙、だったか。いや、鷹に睨まれた鬼だな、これは。
だが転機が訪れた。他の鬼があの男の背後に回り込んで襲いかかったのだ。しかしそれを素早く交わし刀を一振りした。鬼はあっさり調理された魚の首のように千切れた。
その瞬間俺は走り出した。鬼の、俺が得た身体能力の限界を使って走った。逃げ出した。幸いにもあの男は追ってこず、俺は今の今まで生き延びてこれたんだ。
「は……」
それなのに、だ。二回も出くわすなんて。きっと今日が俺の命日? いや、冗談。そんなことは俺は神に誓って断言する。ない。させない。淑子を置いて死ぬなんて許さない。
だからこそ、邪魔をするなら殺さなければ。
それが人間であっても。というか俺は人を一度たりとも食らったことなんてないんだ。なぜ断罪されなければならないのか。
もし神が言うならば、俺は神を殺してやろう。
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作者名:クレイジーnight | 作成日時:2019年5月21日 20時