3話 ページ4
淑子は傷の手当てが終わると、少しだけ困惑したような、寂しいような、見透かしたような口振りでAに言った。
「もう、行かれるのですか」
「……」
Aは少し驚くと、安心させるように頭をなでて笑った。その笑みを肯定と受け取った淑子は、頭にあった手を握り、額へ押し付ける。
「そうですか……それは、寂しくなりますね」
もちろんAだって一緒に行きたい。しかしこれから先、鬼と出会すなんて当たり前。そんな危険な状況下に連れては行けない。だからこそ、ここで自分の帰還を待っててもらう、というのが、Aの考えだった。
「心配しなくていい。必ず、必ず人間に成って戻ると約束する。だから、もう寝ろ」
「はい……」
淑子が寝床へ向かう、その小さな背を見つめ、Aはため息を吐いた。一番の心配はここにまた鬼が寄ってこないか、ということ。絶対に安全なところなんてないのはわかっている。だからこそ、最善を尽くしておきたい。
立ち上がり、隅の物置の扉を開くと、二本の刀を手に取った。それは昔、両親から譲り受けた物で、一本は短刀だった。そしてそれは淑子に。彼女が使う使わない関係無く、お守り代わりに、護身用に。
刀を腰に下げ、紺色の羽織りと、日傘を持つ。鬼は日光が大敵。発つなら今夜だ。
「じゃあな、淑子。また文を出す」
出来れば一生の相手を見つけていますように。
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作者名:クレイジーnight | 作成日時:2019年5月21日 20時