11_02 ページ2
仕事帰りに待ちぼうけさせてしまったのだとしたら申し訳ない。せめてブランケットを譲ろうとして、片手が動かせないままなのを思い出す。触れ合っている部分をまじまじ観察すれば、濃褐色の指はどれも自分とは比べるまでもなく、太く長い。それだけでなくとても温かくて、どうしてかと言えばそれは彼の体温が高いからで、考えれば考えるほどに手の甲から伝わる温度が自分の中で熱を持ってきて、そのうち大柄な呼吸の振動まで伝わってきて。
無性に恥ずかしくなって、じわり顔が熱くなる。ゆっくりゆっくり、手首をねじりにねじって緩い拘束から抜け出す。なんとかソファから抜け出して予定通りブランケットを譲渡したは良いものの、自身の時よりも明らかに包める部位が少ないのに笑いそうになる。辛うじて胴体の前面が隠れただけで、長い手足がなんにも覆えていない。合間に見えたフライゴンのまあるい頭はパートナーの腰に巻き付いて、心底気持ちよさそうぷうぷう寝息を立てていて、なんとも羨ましい。
そういえばとドラパルトの姿を探したら、さっきまで自分が寝ていた座面からはみ出た緑の尻尾がウネウネしている。たぶんソファの中でまだまだ夢の世界だろうから、そのまま寝かせておくことにした。
全身自由になった記念にもう一回あくびをして、音をたてないように部屋の窓を開放する。淡い橙から青空に変わろうとしている早朝の街並みが、爽やかな風に乗って室内に新鮮な空気を運んでくる。ナックルの街の天気はあまり崩れることなく、いつも穏やかだ。少し前まで日常の一部だった活発な気象変動は、ワイルドエリア特有のものだったらしい。鳥ポケモンの朝鳴きと一緒に、動き始めた人々の控えめな活動音が遠く響いてくる。自然の中に暮らしている時とはまた違った目覚めのざわめきも、悪くない。
気のすむまで外の景色を眺めてから、太陽を独り占めするように窓前を陣取っている星形の岩に小声でおはようと声をかける。間を置いてにょっきり首が伸び、起きたての不機嫌そうな半目がこちらを一瞥、ゆっくり頷いて返事をよこした。この家に来てバクガメスに初めて会った時、正面に向き合って挨拶したい私と、回り込むたびに甲羅を前に座りなおす彼とで、しばらく文字通り堂々巡りになったのは記憶に新しい。腹に弱点があるからさ、シャイな奴だと思って後ろ向きで許してやって、と仲裁するにしては肩を震わせてながらしっかりスマホロトムを構える家主の姿は…できれば忘れてしまいたい。
141人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:aks | 作者ホームページ:http://alterego.ifdef.jp/
作成日時:2023年3月21日 20時