Astilbe Ⅱ (ページ9)

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大平祥生ページ9

仕事を終え、家へと帰ろうと歩いていた時、大きな音がしてハッと顔を上げた

空を見上げると季節外れの花火が上がっていた

もうだいぶ肌寒くなったというのに花火が上がるなんて

でも綺麗な花火を見ても、昔ほど心を動かされなくなってしまった

1人で見る花火はなんて呆気ないんだろう

そう思いながらただ立ち止まってぼんやりと見ていた

なんでこんな時でも思い出すのは彼のことなんだろう

高校最後の夏、仲のいいグループで行った花火大会

きっとみんな次の春には離れてしまうから、と女子も男子も浴衣を着ていった

慣れない浴衣を着るのに苦戦したけど、そんなことより思い出を残したかった

「Aちゃん、早よおいで？」

屋台や催し物を見ていたら、祥生くんにそう声をかけられた

辺りを見回してみればみんなはもういなくて

「ごめん！今行く！」

待っててもらったことが申し訳なくて

でも声をかけてくれたのが片想いしている祥生くんだったことが嬉しくて

ああ、なんであの時好きって伝えなかったんだろう

みんなではしゃいで、写真をたくさん撮って

すごく楽しかった

祥生くんと2人で撮った写真は未だに大事に保存してある

告白する勇気はなかった

卒業までずっと、仲のいい友達でしかなかった

あの時は関係を壊したくなくて、振られるのが怖くて告白なんてできなかったけど

ちゃんと伝えて振られればよかった、なんて今は思う

花火が終わると、街の大型ビジョンから祥生くんのいるグループが大きく映し出されて、曲が流れてきた

私に笑いかけてくれたあの笑顔は変わらないまま

想い出をそっと心の中に閉まって、私はまた歩き出した