Astilbe Ⅱ (ページ4)

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「汐恩、入るね」

俺は大抵翔也とゲームをしているからいつでも入ってきていいと言っているのに、律儀にインターホンを鳴らして、そう言いながら入ってくる

「A〜、お疲れ」

「…お疲れ」

声に少し元気がないなと思ったけど、勉強とバイトで疲れているんだろうなと勝手にそう思った

「ごめん、ゲームあとちょっとでキリのいいとこまで行くからちょっとだけ待って」

「いいよ、ゆっくりで。私ご飯作ってるね」

そう言ってAは慣れた手つきでエプロンを着て、ご飯を作り出した

この時俺は、Aと結婚したらこんな感じなんかな、なんて呑気なことを考えていた

「いただきまーす」

ゲームも一段落ついて、Aが作ってくれたご飯を二人で食べる

「…美味しい？」

「うん」

Aの作る料理は本当に美味しい

だから黙々と食べてしまう

「ごちそうさま」

「お粗末様でした」

「皿洗いは俺がするから、置いといて」

それだけ言ってまた俺はゲームを始めた

今日はAがうちに泊まる日

だからこそいつものゲームの日課はさっさとこなしておきたくて、ゲームに集中した

Aはいつもならこれが終わるまで、ソファに座って携帯を触りながら俺がゲームしているところを見たりしている

でもその日は、俺の方にそっともたれかかってきた

Aの方から隣に来てくれて嬉しかったけど、ゲームの操作はしづらくなってしまって

「ごめん、A。操作しづらい」

そういうとAはパッと俺から離れた

「そうだよね、ごめんね」

そう謝る顔が、やけに悲しそうだったのを覚えている

お互いお風呂も入って、寝る準備もして二人でベッドに入った

何度隣で寝ても緊張する

「…汐恩」

そんなことを思っていると壁の方を向いているAが俺の名前を呼んだ

「…どした？」

「私のこと、好き…？」

Aの顔は見えない

今思い返せばAの声は少し震えていたように思う

でもその時の俺は、Aがそんなこと言うなんて珍しいなと言う気持ちと、改まって好きだと言葉にするのは照れくさい気持ちでいっぱいだった

『好き』と言葉にできなくて、俺はただAの手を握ることが精一杯だった