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優しい浦田の言葉は切れて、「…そろそろだな」なんて呟きが聞こえる。馬鹿じゃないからその言葉の意味は理解出来て、また涙が溢れそうになったけど、私は上を向くことはしなかった。
「 じゃあ、元気で 」
「 浦田も 」
「 さんきゅ 」
いつも通り、軽い感じ告げて、私はちょっとだけ笑顔を向ける。それを見た浦田は嬉しそうに笑って、私の頬に手を添えた。
私が目を瞑る前に見たのは、声こそ聞こえなかったけれど、確かに『だいすき』って言ってくれた浦田の姿。唇に触れた温かさで、私はその微睡みから、醒めた。
ゆっくり起き上がると、夕焼けで部屋一面が橙色に照らされていた。先程まで浦田が座っていた所は当たり前だけれど誰も座っていなくて、触れてみてもただ冷たいだけのシーツだった。
もう、そこに浦田は居ない。それを感じさせるには充分すぎて、結局また涙を流してしまったけれど、上を向くことはしない。きっと、何度でもこうやって泣いて泣いて泣いたとしても、また笑える日が来るのであれば、浦田はそれを望んでいるはずだから。
ーーーだから、今日は。
ぽろぽろと流れ出す涙をそのままに、私は意のまま声をあげて泣いた。
スッキリするのかも、いつかこの痛みが無くなるのかも分からないけれど。いつか笑える日が来るのなら。今日ぐらい沢山泣いたって、浦田はきっと「そっちの方がいい」って少しぶっきらぼうに言ってくれるはずだから。
そうして、日が沈んで暗闇に包まれていく中で、私はずっと彼を想って泣いたのだった。
「 上を向かないで、堪えなくたっていいから。前を向いて、進んで、いつか…ちゃんと、笑って 」
Don't look up! 〜Fin〜
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しろもん* - すごく良い作品ばかりで、ひたすら感動していました。私は、最後のお話が好みです。でも、本当にどの作品も素晴らしかったです。 (2020年1月21日 23時) (レス) id: 36bbb34c6c (このIDを非表示/違反報告)
アヤノ(プロフ) - 涙がボロボロで止まらなかったです。描写もどのお話も素晴らしく、Bバージョンもとても楽しみです。 (2020年1月19日 0時) (レス) id: b204067585 (このIDを非表示/違反報告)
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