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少し予想、いや、期待していてもいざ迎えると落ち着いていられなかった。そっと合わせた唇は一度も離れることなく角度や感触だけが変わっていき、深くなると腰に手が添えられた。しがみつくようにセフンのスーツをぎゅっと握る。
やや体重をかけられ、ヒールでは踏ん張れずに後ろに一歩体勢を崩してしまうと、それから一歩また一歩と後退していく。どんっと何かにぶつかればお皿がガチャンと音を立てた。テーブルにぶつかったらしい。そしてまさか、そのテーブルの上に押し倒された。
私にはあまりにも刺激的すぎる展開に一気に目が覚める。
胸板に手を突き立てると素直にゆっくり離れていった。離れていくときにささやかに音が鳴って、全身から熱が吹き出る。
「………」
いやでも、こんな体勢で、今にもキスできそうな距離で見つめ合う方が恥ずかしいかもしれない……。目を反らし、顔も横に向けると顎を捕まれて元に戻される。
顎を掴んだ手は頬まで覆い、ふにっと潰された。
突然のおふざけに眉を寄せ、口が突き出るような間抜けな顔にした張本人が、この間抜けな顔を見てそれはそれは楽しそうに笑っている。
その顔を見ていたらなんだか毒気を抜かれてしまう。
怒った顔なんか作れなくて、一緒に笑ってしまった。
そのとき、コンコンとノックされる音が聞こえてきて二人同時に閉まったドアを見やる。
『お帰りの準備はお済みでしょうか』
ジョンインが中々出てこない私たちを気にしている。セフンを見上げると、セフンは扉の向こうにいるジョンインに『今出ます』と声をかけた。
「時間切れだって」
そう言うとテーブルと腰の間に手を差し込んで抱き起こしてくれた。細いのにしっかりした大きな体に一瞬だけ包まれて、そのぬくもりを堪能する間もなく離れていく。セフンは床に落ちていたバッグを拾い上げてそのままドアへ向かった。
「あ、セフン……」
「とりあえず出ましょうか」
「……うん」
セフンはドアを開け私が出るのを待っている。渋々出るとすぐそこにはジョンインがいて、私たちに向かって軽く頭を下げた。そしてセフンを見て微笑む、……というより面白がって笑っているように見える。
「うわお前ニヤけ……あっはは!」
「……」
セフンは無言を貫きスタスタと先に行ってしまった。
「……セフン、ニヤついてた?」
「ええ。嬉しそうでしたよ」
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こむ(プロフ) - 〇〇さん» まさかコメントを頂けるとは思っておらず、大変遅くなってしまいましたがこちらこそ本当にありがとうございます。こうやって感想頂けることで忘れかけていた執筆時の思い出が蘇ってより一層自分にとって大切な作品になりました。本当に嬉しいです!ありがとうございます (3月8日 19時) (レス) id: 65eaa14bbb (このIDを非表示/違反報告)
〇〇(プロフ) - 作者の方に心の底から感謝を伝えたいです。長編になると話の筋がよれてしまったり途中で終わってしまったりしますが、無駄な話も無くしっかり伏線回収して感情移入しやすい描写を多く入れてくれて、、、プロの小説家さんだ、号泣しました。本当にありがとうございました (10月30日 0時) (レス) @page47 id: dc7d3a4bc1 (このIDを非表示/違反報告)
こむ(プロフ) - るるさん» コメントありがとうございますー!お返事遅くなってしまい申し訳ありませんTT一気読みお疲れ様でした!そしてめちゃくちゃ嬉しいお言葉を本当にありがとうございます。大変恐縮です;;私もこれを漫画で見たい気持ちでいっぱいです(≧∇≦)いつか縁がありますように…笑 (2020年3月30日 15時) (レス) id: fd99a38d2e (このIDを非表示/違反報告)
こむ(プロフ) - EXO_Unicorn1228さん» はじめまして!コメント頂いていたのにお返事遅くなってしまってすみません;;泣いてもらえるとは…!笑 11章という長さになってしまうほど描写に拘ってきて良かったなぁと思いました;;最後までお読み下さり本当にありがとうございました(*^^*)! (2020年3月30日 15時) (レス) id: fd99a38d2e (このIDを非表示/違反報告)
こむ(プロフ) - 淡藤さん» 淡藤さま!お返事がとんでもなく遅くなってすみません;;何度も読み返してくださり本当にありがとうございます!ツンで甘いせふん、私の中でもかなりお気に入りのキャラですのでそう言っていただけて超嬉しいです(*^^*)またお見せできたらいいなぁ… (2020年3月30日 15時) (レス) id: fd99a38d2e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こむ | 作成日時:2019年10月9日 22時