嘘の花束#7

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扉が開く音が聞こえて振り返ると後ろ手でドアを閉めるミンソク先生と目が合った。一瞬見たのはじとっとした目だったけど、すぐ目尻にシワを寄せ微笑んだ。


「今期もジュンミョンのとこで頑張るんだ」
「あ、そのことで謝りたくて……」
「謝る？」
「お誘いいただいたのに……すみませんと思って」
「はは、俺ジュンミョンに負けちゃった？」
「いや、違うんです……私は異動願を出したんですが」
「ジュンミョンが手離さないんでしょ」
「え？」
「今夜の宴会来る？」
「え、はい。ミンソク先生は？」

「Aなにサボってんの？さっさと仕事に戻れ」


おしゃべりに夢中になってたら眉をつり上げたジュンミョン先生が部屋から出てきた。びくっと体を強ばらせた私を見てミンソク先生が笑う。頑張って、って肩に手を置いてゆっくりと撫でられた。去っていく後ろ姿を見送って部屋へ戻ると、スマホが短く震えた。


『愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる』


一度にたくさんの問題を抱える私、ストレスで本当に頭のてっぺんが禿げそう。見慣れてしまった差出人不明の迷惑メールをすぐにゴミ箱へぶち込んで飼い主の側へ戻った。



・



人事異動の季節に行われる大きな宴会。大きい事務所だから宴会の場所もそれなりの場所で行われる。女子達は控え室まで用意してあってドレスに着替えるのがしきたりとなっている。


「ジュンミョン先生の下、そんなに気に入っちゃったの〜？」


大きな鏡を見ながらメイクを直している同期の女子に言われて『ハハー』と棒読みの笑い声を返す。


「ん？全然嬉しくなさそうだね？」
「そんなこと……」
「羨ましいけど。あ、A鳴ってるよ」
「ん、うん」


ブブ、と何度も着信するメールに嫌な予感しかしない。１番新しいメールを開くと『今夜会いに行ってもいい？』だった。ぞっと鳥肌が立ってスマホをロッカーにしまうと、同期が心配そうに顔を覗き込んできた。


「あれ、まだ来るの…？」
「うん。"今夜会いに行ってもいい？"だって。どこに来るつもり？」
「気持ち悪。A本当に気をつけて。会ったことあるんだっけ」
「ない。顔も知らない。なのに…マジで無理」
「ジュンミョン先生に相談してみた？」
「してない。何か言えない」
「……そっか。してみなよ」
「んー、うん。いつか」


なかなか言えないよ。ストーカー被害にあってますって。それに言われたって困るでしょ、私はただの部下でただのワンちゃんなんだし。興味ないよ。

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