． ページ26
.
「こっそり入れるもんなの？」
「うん。窓の鍵、一つだけ開けてきたからそこから」
「本当？大丈夫？」
「あはは、私の部屋２階のあそこだから、見てて。電気がついたら成功したと思ってね」
笑う彼に、最後にお礼を言って別れた。
それはこうして送ってくれたことについてだったけれど、買ってきてくれたケーキも、楽しい会話も、海の写真も、貸してくれたベッドも、この夜に彼がくれたもの全てが特別で、嬉しかった。
そういえば、優太くんに彼の撮った他の写真を見せてと言ったことは、玄樹くんに遮られてどこかへいってしまっていた。それだけは心残りだなぁとそう思いながら、出掛けに心配していた物置部屋の窓へも何とか足が届いて中へ入れた。
出て行ったときと同様に、ゆっくり、音を殺して階段を上がる。
自分の部屋までが長い。
何とか辿りつくと、一瞬にして緊張の糸が切れて大きく安堵の息を吐いた。
勢いよくベッドに身を投げる。
楽しかったな。本当に、とっても。
けど同時にドキドキすることも多くて、ちょっとだけ疲れたようにも思う。
このままもう少しだけ寝てしまおうか、と思ったところで気づく。
優太くんに別れ際、見ててと言ったこと。
冗談交じりだったし、どうかな。
そう思いながら起き上り、カーテンを開く。
窓から見下ろす道の上に、優太くんがいた。
私に気が付いて、あの太陽みたいな笑顔で大きく手を振ってくれる。
さっき別れたばかりなのになぜかその笑顔が無性に名残惜しいものに思えた。
私の胸に今度は、心臓が立てる音とはちがう類の音が鳴ったような気がした。
ベランダに出て、私も手を振り返す。精一杯、大きく。
彼に向かって何かを叫びたい気持ちになったけれど、大きな声を出すわけにはいかない。
だから声にはしないまま、口を大きく動かして伝えることにした。
「写真、また見せてね」
優太くんが真っ直ぐに伸ばした腕の先、親指を立てる。
伝わったんだろうか。
多分伝わってないだろうなと思ったけれど、それもまたおかしくて笑う。
また会えるかな。
会えたらいいな。
自転車に跨り、朝日の差す中を進んでいく彼が、坂道の向こうに見えなくなるまで手を振っていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2006人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ジャニーズ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こむぎ(プロフ) - sarusukiさん» 2はフラグが立ってるので、問題ないようであればご自身で設定をお願いします！ (2018年6月17日 18時) (
レス) id: c18b3d0fe1 (このIDを非表示/違反報告)
sarusuki(プロフ) - パート2の方が見られなくなってしまいました！！見られるようになりませんか？涙 (2018年6月17日 17時) (レス) id: bd649719ef (このIDを非表示/違反報告)
こむぎ(プロフ) - 湊さん» ありがとうございます！この話は書きたい描写が多すぎるので、できるだけくどくならないように気をつけたいと思ってました…！多分まだまだ続くのでこれからもお付き合い頂けると嬉しいです〜！ (2018年5月20日 16時) (レス) id: ae12cda8c1 (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - こむぎさんの書くお話大好きです！！諄くない、綺麗な文章を書く方だなぁ、といつも思ってます。これからも更新楽しみにしてます！ (2018年5月17日 13時) (レス) id: 5d99fecd0e (このIDを非表示/違反報告)
こむぎ(プロフ) - ゆりーるさん» わーいありがとうございます！3人のもともとの強すぎる個性を殺さないようにキャラ作れたらなぁと思ってるのでそう言って頂けてめちゃくちゃ嬉しいです〜！これからもよろしくおねがいします！ (2018年3月3日 15時) (レス) id: 599e963edf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こむぎ
| 作成日時：2018年1月3日 11時
