baby I love you

. ページ32

.



「いてぇ…」



正直すぎることに思わずそれが口から零れるもんだから「優太くんもどっか痛いの…？」とAが心配そうに俺を見上げる。



「あ、いや…、こちらサイドの問題なんで…」



大丈夫だ気にしてくれるなという意味でそう返すけれど、Aは苦しそうな中でなおも心配そうな表情をしていた。
こんなことでセンチメンタルになってしまうのは俺の問題だ。娘の成長を素直に喜べない親があるか馬鹿、と自分で自分を戒める。
そういえば昔からこういう時はお赤飯を炊くものとも言うし、本来きっとおめでたいことのはずなのだ。



大人になるために必要なこと。
喜ばしいこと。
分かる。分かっている。
でも、子どもらしく小さなことではしゃいだり笑ったり拗ねたり泣いたりするAを可愛いと思うし、こういうどうしようもなく辛い時に俺を頼ってくれるAを愛おしく思ってしまうから。
だから、できることならできるだけ、できるだけゆっくり大人になってほしいな、って。



随分自分勝手なことを考えてしまった。
そうした後ろめたさ半分純粋な心配半分で、「何か俺にできることがあるかな」なんて聞いてみる。Aはしばらく考えて、それから「あれやって」と口を開いた。



「何？」
「あれ見たい。…ほらあれ、刹那」
「……えぇ」
「最近見てないから」



ちょっとなかなか予想外のリクエストで反応に困ってしまった。Aの痛みを和らげる直接の効果は確実にないはずだけども、気が紛れるもんなんだろうか。それでAが少しでも元気になるなら安いもんだとは思うけれど。



頭の下からそっと退く。
深呼吸をした。特別広くはないリビングで助走をつけて、そうして久々に披露した渾身の持ちネタは気合いが入りすぎて下の階には多少迷惑だったかもしれない。



「ふっ、」



Aからはただ失笑されて終わる。何だこいつ。いや別にいいけども。ちょっと切ない気持ちになってそろそろとソファの上、元の位置に戻った。別にいいけども。
Aも一度上体を起こしてから再び元の俺の膝の上に収まる。仰向けに寝転がったAと目を合わせると、けれど面白さが後から遅れてやってきたのか、それからAが笑い始める。くっくっという静かな笑い声が徐々に大きくなって、けらけらと止まらなくなるもんだから俺もそれにつられて笑ってしまう。



その晩に炊いた赤飯は味は悪くなかったものの、デリカシーがないということでAの不興を買った。





.

年の初め 篇 −26歳と15歳−→←.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す