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*続き(完) ページ34

MOON NIGHT様 リ ク エ ス ト 真鳥side
『丈くんだって傷付かないで』

特支教室の戸締りをしていると聞こえた丈の声。
何時ものハキハキした丈とは違う、微かに震える声で話し掛けてきて、その目も伏せられている。

「相談やないけど…聞いてほしいっていうか」
「ええよ、入り?」

保健室での会話は少し聞いていたから、てっきり仲直りをして一緒に帰ったものだと思っていた。
ともかく閉めたばかりの特支教室を開けてやると中に入って椅子に腰掛け、ぼんやり話し始めた。

「なんかさ、夢で久々に昔のこと思い出してん。喧嘩っ早くて今江の悪口とか聞こえたら手当たり次第暴れとって、俺めっちゃ痣だらけで気色悪い奴やったのに今江は嫌わんと接してくれててさ」
「へえ、そうなんや」
「何で今江ってあんな素直なんやろ。怖いわ俺」

強化ガラスで囲んだような、丈の閉じ籠る世界。
外からガラスを破ることは決して出来ないけど、見えない恐怖に体を縮め、あるいは声を振り絞り丈が自分を追い詰める姿は確かに見えていて。
痺れを切らしてガラスに傷を付けようものなら、表面を覆っていくヒビは多ければ多いほどに丈を怯えさせ、その姿ごと濁った霞で隠してしまう。

「もーどうしたら良いん…」
「丈がやりたいようにしたら?」
「それが駄目やから今こうなってんやん」

そんな場所からでも丈が助けを求めてくれているなら、丈の心で打ち破れる部分は必ずあるから。
なあ先生、と微かに唇が動いて丈の肩が震えた。

「俺な、全部無意識やってん。当たり前みたいに仲良くて、何も考えんくたって今江と一緒でさ。覚えてる限り一番古い記憶にも彼奴はおんねん、そんぐらいの関係やで?今更どうやったら対等になれるんかとか分からんし、俺、彼奴との関係が変わるって考えただけで怖いねん、いっつも…」

いつも、と丈が言ったのは、同じような恐怖心を程度こそあれど繰り返し感じてきたからだろう。

「でも頼り合っていこうって思えたんやろ?」
「ん…」
「今はそれで充分やん、人間そんな急に素直なれ言われても無理やねんから。気持ちがあれば絶対ちょっとずつやけど変われるし、怖くないで?」
「真鳥先生…俺、怖いけど…今江と居りたい…」
「ん、そっか。明日から特支教室またおいで」

そう言って頭を撫でてやると、丈は何度も頷いて幾筋もの涙を流した。更に強く抱き着いてきて。
大丈夫や。今江なら丈のこと受け入れてくれる。
もっとも一番それを分かってるのは丈やけどね。

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y - MOON NIGHTさん» こちらこそ完結までお読み下さいまして誠にありがとうございました。読者様に支えて頂いた部分は凄く大きかったですし、ほっと心が温まるようなお話を通して私の伝えたかったことや自分の心そのものを整理できたので良かったと思います。長らく御世話になりました。 (2018年1月24日 14時) (レス) id: cd7f25b263 (このIDを非表示/違反報告)
MOON NIGHT(プロフ) - 完結お疲れ様です。ステキなお話ありがとうございました。作者様の書く文章が大好きです。何か、こう、温かさを感じていました。本当に素晴らしいお話をありがとうございます。 (2018年1月23日 23時) (レス) id: 38dd7cb8aa (このIDを非表示/違反報告)
y - MOON NIGHTさん» こちらこそリクエストして頂きまして誠にありがとうございました。色々なお褒めの言葉、嬉しい限りです。これからも本作品をよろしくお願い致します。 (2017年11月14日 7時) (レス) id: cd7f25b263 (このIDを非表示/違反報告)
MOON NIGHT(プロフ) - リクエストお応えいただいてありがとうございました!やはり作者様の書かれる文章がとても好きだなあと改めて感じました。心情表現というか人との関わりの表現だったりストーリーそのものが大好きです。続きのお話も楽しみにしております。 (2017年11月13日 18時) (レス) id: 38dd7cb8aa (このIDを非表示/違反報告)
y - さちお。さん» 2度目のコメント&リクエストありがとうございます。朝田くんは毎年校外学習に行っていない設定なので特支教室メンバーでの学校訪問だったり見学などといった形になると思います。他に細かい希望があれば後からでもコメントして下さい。 (2017年10月28日 8時) (レス) id: cd7f25b263 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:y | 作成日時:2017年8月20日 12時

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