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君は、黒よりも青、青よりも黒が似合う。
夜の闇に溶けて、手を伸ばせばあっさりと通り抜けていきそうな、そんな暗い、暗い青が似合う。
身の程を弁えず、よっぽどそんな言葉をかけてしまおうかと思えた。
シンプルな、夜色をしたサマードレスに、ほっそりとした涼やかな体躯を包んだ彼女をちらと見る。蒸し暑い夜でも、薄い空色のカーディガンを羽織っているところが如何にも女の子らしい。
ともすれば非現実的に感じ、ひとつ間違えれば僕を大胆にさせてしまいそうな光景は、彼女が押す、アンバランスなほど明るい赤の自転車によって現実味を帯びさせている。
やっぱり、彼女に赤は似合わない。何でも着こなせるような、どの色も自分のものにしてしまうような器用さは持っていない。
こんなことを考えるなんて、いつもの僕らしくない。基本的に、女の子は苦手なはずだし、国語の成績で5がついたことなんてない。非現実的なシチュエーションは、時に人をロマンチストに変えてしまうらしい。
「やっぱり、理科が課題なんだよね……もう少し点数が取れるようになったら、志望校も大分近付くと思うんだけど、どう思う？」
「はえっ!?」
物思いに耽っていたところに、いきなり話しかけられ、男としてはかなり恥ずかしい反応をしてしまう。
「もう、そんなに上の空で歩いてたら、電信柱にぶつかっちゃうよ？」
案の定くすくすと笑われ、お返しのように睨み返すけど、彼女は1%も悪くない。ぼうっとしていた僕が悪いのだ。寧ろ気まずさを打ち破ってくれたことに感謝しなくては。
「話の続きだけど」
「それだけどさ、よかったら理科、教えようか？ ほら、一応この間のテストでもそこそこ点取れたから、さ。学校でもクラス違うから教えられないけど、放課後とかなら空いてるし」
なんだかんだで彼女の言葉がしっかりと頭に入っていたらしい僕は、台詞を遮るような形で話し始めてしまう。あ、嫌なやつだと思われたかも、と後悔したけど、言葉は既に口から離れた後。
「え……？」
当惑、の2文字が浮かんで僕に殴りかかりそうな反応を見て、そらみたことか、たまたま一緒に帰れたからって調子に乗るな、と意地の悪い僕が自分を虐げる。
「ごめんね、やっぱり」
「嬉しい！ 本当に教えてくれるの？ 理科学年トップに教えてもらえたら、怖いものなしだね！」
予想外の反応に、こちらが驚く。
「それじゃあ、よろしくね！」
濃藍色の景色の中、彼女の笑顔だけが朝日のように輝いていた。
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