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「で、でもさ、生贄を捧げるなんて、」
「なーんてね」
「え？」
僕が発した言葉に被せて言った雅姫はぺろりと舌を出して悪戯気に笑う。
「もー、冗談だって！冬樹は騙されやすいよね、ほんと」
私としては面白いからいいけど、と付け加えたので、今のは冗談だったのかと心を撫でおろす。でも、それにして雅姫の表情がやけに真剣に見えたのが気になったけど、その後どうでもいい話を続けている間に忘れてしまった。
＊＊＊
ふわりと欠伸をして伸びをする。カーテンを開けずとも漏れてくる光は、今日が快晴だということを示していた。
「んん・・あ、時間ないや」
時計の針は八時のところを指していた。あまりゆったりしていると雅姫との待ち合わせ時間に遅れて怒られてしまう。クローゼットから昨日選んでおいた服を取り出し、急いで階段を降りる。
「あら冬樹、ご飯はいらないの？」
「パンだけ食べてく」
キッチンから声をかけてくる母さんに返事をして、持っていくものを鞄に詰め込む。ばくばくと跳ね上がる心臓の音は、急いでいる為だけではない音色が含まれていた。
雅姫のことは、会った時から気になっていた。目を吸い込まれるような黒く短い髪と、整った鼻筋、そしてきりっとした瞳はそのまま雅姫の性格を表しているようだ。それから会話していくごとに、気になる、から、好き、へと変化するまでにそう時間はかからなかった。特に、当時引っ越してきた後に雅姫と会ったことは今でも鮮明に思い出せる。
「初めまして、冬樹君・・だっけ？」
「あ、っはい！よ、よろしくお願いします・・」
くふふ、と笑った雅姫はそんなに緊張しないでよ、と付け加える。
「この島で日本語を話せる人は珍しいからね。多分私と冬樹君だけじゃないかな」
大きく口を開けて話す姿は、道端に強かに咲く一輪の花のようで、心がどきりとなるのを感じた。
と言っても僕が大したアピールをできるはずもなく、友達という関係が延々と続いている。この関係が崩れてしまうことを考えれば、どう考えても告白するという選択肢はなかった。
「冬樹、おそいんだけど」
「ご、ごめん！」
「まぁ五分も遅れてないしいいけどさ」
そう言って歩き出すので、僕も隣に並んで適当な話題を振った。
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